イチロー選手は何がすごいのか?②

前々回の投稿で「イチロー選手は何がすごいのか?」という投稿をしました。
それをさらにかみ砕いて説明していきたいと思います。

イチロー選手の優れた能力のひとつに「目標設定能力」があります。
その「目標設定能力」について説明していきます。

 

目標設定は能力です。
よく「目標を立てろ」と言われますが、能力なので能力がない選手は言われただけでは目標は決められません。
考える技術を上げなければ、的確な目標設定はできません。
優れた思考技術がなければ優れた目標設定ができないということです。

この目標設定能力が低いと、練習やトレーニングを継続することが難しいだけでなく、適切な練習もできません。
明確な目標設定をすることで得られる効果はたくさんありますが、そのひとつが行動力が上がることです。
目標を設定することで学び続けることもできるようになります。
成長するためには欠かすことができない能力です。

 

明確な目標を設定するには、目的がなければなりません。
目的にいくまでの通過点が目標だからです。
「こうなりたい」しかし「今はこうだ」というのを理解して、それを近づけていくのが目標になります。
それなので、目標は何個もあって当然ということになります。
大きな目標から小さな目標までたくさんの目標を設定することです。
その目標が、易しすぎず難しすぎない難易度であることが重要です。
挑戦と自分の能力のバランスが大事で、能力を超えすぎた挑戦はやる気を失うことになります。
逆に、能力以下の挑戦は成長機会を失うことになります。

少し頑張れば達成できる目標を大量に設定し、それを達成し続けることで、頑張ればできるという確固たる自信が身についていきます。
達成感や満足感から得られる喜びは、味わえば味わうほど、さらに前に進めるエネルギーになると思います。

目標は達成することが重要であるということです。
つまり、目標設定能力と目標達成能力はセットで考える必要があります。
そのためには、自分を客観視できなければ的確な目標は立てられません。
自分の能力を客観的に見る能力を養い、能力に合わせた目標設定をすることです。

「試合に勝つ」「ヒットを打つ」などの結果目標だけにならずに、自分が頑張れば達成できるような「練習でしてきたことを出す」「自分のスイングをする」などのプロセス目標にすることも重要です。
与えられた目標ではなく、自分が本当に目指している目標で、なるべく具体的なものにすることです。

「明確な目標設定をする」ことで成果を出すことや成長につながります。
ここで本当に重要なことは「目標設定」よりも「明確な」の部分です。
「明確な」というのは、今やることを指します。
そうすることで「他人」や「環境」や「出来事」といった自分でコントロールできないことに意識を向けるのではなく、今やるべきことに集中できます。
これが成長につながり、パフォーマンスを発揮するにも重要な思考でもあります。

また、目標の1つに「家族のため」「チームのため」プロ選手であれば「ファンのため」など誰かのために頑張るのだという目標を入れることで、やる気を高めることもテクニックのひとつです。

 

「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道」とイチロー選手はコメントしていましたが、まさにその通りだと思います。
それを身をもって体現したのが、イチロー選手ではないでしょうか。
自分に常に課題を持って、さらなる成長を目指す姿は、見習うべきポイントです。
イチロー選手の行動が、毎日24時間をどれだけ目標に支配させることができるかが重要であるということを証明していると思います。
自分自身をコントロールできていなければできないことです。

 

目標設定能力を高めるためには、他の能力も高めなければなりません。
例えば、客観的に見る能力がなければ自分にあった目標設定はできません。
自分自身を知るということはとても重要です。
高い目標を立てることで行動力が上がる人は高い目標を立てれば良いと思います。
しかし、全員が高い目標を立てることが良いというわけではなく、人によっては、高い目標を立てることで不安な気持ちになる人もいます。
そのような人は、無理をして高い目標を立てる必要はないと思います。

人それぞれ目標が違って当然です。
自分に合った目標を設定できるように思考技術を高め、目標設定能力を上げていくということも必要なことだと思います。

イチロー選手は何がすごいのか?

先日、イチロー選手が現役を引退しました。
僕の講演やスポーツセンシングの話を聞いたことがある方はわかると思いますが、僕の言う「スポーツセンシング」の塊のような選手がイチロー選手です。
プロ野球を見ていると、選手のスピードやパワー、体格、技術、結果などに目が行きます。
それで、スピードやパワー、体格、技術、などを向上させようと練習しますが、そのような選手のようにはなれません。
一流選手がパフォーマンスを生み出している本質的な能力は、スポーツセンシングだからです。
その極みがイチロー選手です。
イチロー選手の引退会見などから考えてみたいと思います。

 

イチロー選手の根本にあるのは、野球を誰よりも愛して探究することで充実感や喜びを得ているということではないでしょうか。
この「喜び」という部分は「楽しむ」と表現するトップ選手が多くいますが、会見の中で、「楽しかったか」という質問に「楽しい」とは言いませんでした。

この感覚はトップ選手とアマチュア選手では、大きく異なっているように感じます。
トップ選手の楽しむは、達成感や喜びを表しています。
それを得るために、練習中でも試合中でも、自分のやるべきことを明確にし、感情を消して夢中になります。
夢中なので、そこに楽しさは感じません。
逆に、苦しさも感じません。
だから、ハードな練習にも取り組めるし、練習を長く続けることもできます。
はたから見たら「努力している、頑張っている」と見えますが、そういう意識は本人にはないように感じます。

僕がプロ野球の世界に入り、トップ選手を見て感じたことは、努力を努力と思った時点で勝負にならないということです。
周りから見たらすごい努力しているように見えても、本人は努力だと思っていないで、当たり前にやらなければいけないこと、やるべきことだと思ってやっています。
イチロー選手の話を聞いていると、努力とは、やる気でするものではなく習慣であると感じます。
自分がやると決めたことは、やる気のあるないにかかわらず、やるべきこととして、いつも通りできます。
「やりたいこと」と「やるべきこと」が同じ、もしくは近い認識をしていることが重要です。
「やりたいこと」より「やるべきこと」が優先して行われるのがトップ選手です。

その積み重ねが良い結果や成績につながるのだと思います。

 

そうなるには、イチロー選手のように自分を成長させるということに価値を持つことも重要な要素です。
比較対象が周りの選手ではなく今までの自分と比較して成長することを目指していることがわかります。
だから、数々の記録や成績を残しても、人々に称賛されても、浮かれることも慢心することもないのではないでしょうか。
所属チームが決まっていなくても、試合に出場する権利を持っていなくても、黙々とトレーニングができるのも昨日の自分よりも成長したいという想いと、そうすることが道を切り開く最善だと考えているからだと思います。
メジャーリーガーは筋肉増強剤などのドーピング疑惑がかかる選手がいますが、イチロー選手は、まったくクリーンな選手であり、初動負荷トレーニングによって、自らを鍛え上げ、感覚を研ぎ澄ましてきたことからも、常に自分自身と向き合ってきたことがわかると思います。

 

スポーツセンシングに優れているとは、いくつかの能力が優れているということですが、その中に、優れた感覚を使って物事をとらえる能力があります。
まさしくイチロー選手が、他の選手と比べ、特に突出して高い能力です。
人よりも優れた繊細なセンサーを身に付けてるので、僅かな違いを感じ取り、パフォーマンスに生かすだけでなく、それを身体に記憶させていくことで次にもつなげていきます。
それだけでなく、怪我を予防することにも役立ちます。
多くの選手が、怪我や故障に苦しんでいますが、イチロー選手は引退まで徹底した自己管理と優れたセンサーにより自分自身の身体を守ってきました。
その物事をとらえる能力を磨くためにやっていることのひとつが、自分の決めたルーティンを決して怠らないことです。
試合の日は朝起きるところから寝るまで、球場入りの時刻やアップ、練習、食べ物まで、同じ行動パターンを一貫して繰り返しているそうです。
それが習慣として定着しているので、身体の僅かな変化に気がつき、微調整できます。
何年も一貫して、同じ行動をしているのに対して、バッティングフォームは毎年変化しています。
探求心を持って、これが自分にとって最善だと思う方法を追求し続けているということです。
自分で様々なことを試し、チャレンジする判断力がなければ、なかなかできることではありません。

 

フィジカルトレーニングや技術練習は重要ですが、もっと重要なのがスポーツセンシングを磨くことです。
イチロー選手を見ていると本当にそう思います。
行動すべてがそこにつながっています。
スポーツセンシングを磨くこととは、それに必要な様々な能力を向上させることですが、イチロー選手の会見を聞いてさらに確信を深めることができました。

ルイス・クルーズ

昨日、今日と侍ジャパンとメキシコ代表が試合をしています。
メキシコ代表には、千葉ロッテマリーンズ時代のチームメートのルイス・クルーズ選手が入っています。
クルーズ選手は、ロッテに入団する前は、ニューヨークヤンキースでプレーしていました。
何といってもクルーズ選手といえば守備です。
そしてナイスガイです。
ロッテ時代に若い選手に一生懸命教える姿も印象的でした。

そんなクルーズ選手が今回守備を教えてくれました。
しかも、夜のバーラウンジで(笑)

目から鱗が落ちるようなことばかりだったので少しでも共有できたらと思います。

 

話している中でよく出てくる言葉がリズムです。
自分のプレーする動画を解説してくれながら、リズムよく流れるようにプレーするということをとても強調していました。
急いでリズムが狂えば、スローイングが乱れてしまうので、リズムを大切にし、急がないと間に合わない時は、リズムを早くするだけと言っていました。
どんな時も、1.2.3.のリズムは同じです。

 

もうひとつが足の使い方。
足を動かして捕球して、足を動かして投げる。
足を上手く動かすことが大事だということを説明してくれました。
実際、こんなにも足を意識して使うことを重要視しているとは思いませんでした。

そして、足を上手く動かす、ということがどのような動きなのかを細かく教えてくれました。
その中でダメな動きは、足をクロスさせること、と言っていました。
「日本人と自分の違いは足の使い方で、自分は両足がクロスすることはない」と言っていました。
カメラの三脚を例に、「三脚の脚が重なったりクロスしたらカメラは倒れたり、ブレてしまうだろ。カメラは人間でいう目だ。そして三脚は人間でいう足だ。だからクロスさせてはいけない。」と説明してくれました。
足を上手く使うことで、目線を安定させるということです。

投げるときは、右足で地面をプッシュして足で投げるという説明でした。
小手先で投げているように見えますが、意外にも、手ではなく、右足の力で投げているのだと思いました。

自分の右側に来た打球に対して、捕球から3ステップで投げることが重要だが、日本人はどうしても7ステップかかってしまうとも言っていました。
足の使い方もそうだが、手の使い方も3ステップで投げるには重要ということを教えてくれました。

そのやり方は、
「捕球したら身体の中心に両手を持ってくる。」
「片手で捕りにいかずに右手もグラブの近くに置いておく。」
ということを強調していました。
「右手は捕るためにグラブに添えるのではなく、早く投げるためにグラブに添えるんだ。」と言っていました。
僕は小さな頃から、ボールを弾かないように両手で捕ると教えられてきましたが、そうではなく、早く握り替えるために、右手はグラブの近くに置いておくという考えを教えてくれました。

ダブルプレーでは、ボールを捕りにいかないで、身体の近くで捕ること。
「自分が手を引くスピードよりもボールが来るスピードの方が速いのに、なぜ手を前に出す?身体の近くで捕った方が速いだろ」と言っていました。
足を使って胸の前で捕球することを心掛け、逸れたボールに対しては、捕球したら身体の中心に手を持ってくるということを説明してくれました。

打球に対しても、打った瞬間にバウンドを予測して楽な位置で捕球します。
正面の打球には、手を前に出して捕球体勢を作り、手でリズムを取りながら対応していきます。
バッターやカウントで守備位置を変えることも重要と話していました。

 

練習方法を聞くと、テニスボールを2つ使って壁当てをすると良いと言っていました。
ボールを投げたら、左手で持っているボールをすぐに右手に持ち替えて、左手で跳ね返ってきたボールをキャッチする。これを繰り返すと上手くなる。
上手くできてきたらボールを一つにして、早く持ち替えて投げる。
これを聞いて感じたのは、本当に簡単な基本的な練習を繰り返して上手くなったのだと思いました。

また、楽しまなきゃ上手くならないし、自分の子供には、バスケットやテニス、水泳、釣りなどいろいろなことをやってほしいとも言っていました。

「日本の教え方と違う」という話をしたら、「自分はこのやり方がいいと思っているけど、やらなければいけないわけではない。」
「教えてほしいと言われれば教えるが、言われなければ何も言わない。」
「個性は大事だから、人によって教え方は変えるし、その人に合った動きをするべきだ。」
などとも言っていました。
このあたりの考え方も日本とは違うのだなと思いました。

 

とても知的でいろいろと考えながらも、野球を楽しんでいるということが随所に感じられました。
まだまだ現役でプレーできるとは思いますが、とても良いコーチになるのではないかと思うくらい、わかりやすく、情熱をもって教えてくれました。

クルーズ選手が言うように、練習することが楽しいと思えることが上達につながります。
この投稿が、そんな考えもあるんだ、グランドで試してみようという考えになるきっかけになればと思います。

僕自身も教える引き出しも増えたし、とても有意義な時間を過ごすことができました。

母指球をどう使う?

選手を見ている中で、母指球の使い方が上手くできていない選手が多くいるように感じます。
多くの有名選手が母指球が大事だと発言していることからも、母指球はスポーツをする上で、キーポイントではあると思います。
しかし、常に母指球に意識を置いて、力を入れていることは、そのような選手がやっていることではありません。
その母指球をどう意識するのかを考えてみました。

 

母指球とは、足の親指の付け根のところにある丸く膨らんだ部分のことを言います。
動きの中で母指球をうまく使うことはパフォーマンスを発揮するためには欠かせないことです。
しかし、逆に母指球をうまく使えないがためにパフォーマンスを落としてしまっている選手を多く見ます。
ランナーのリードの時に母指球に力を入れていたり、守備の構えで母指球に力を入れていたり、ピッチャーが母指球に力を入れて始動したり、バッティングで両足の母指球に力を入れて構えたりしている選手を多く見ます。

確かに、多くのプロ野球選手が「母指球、母指球」と言っています。
それは母指球にタイミングよく力を入れることを意味しています。
タイミングよく力を入れることとは、タイミングよく力を抜くことでもあります。
そのタイミングを間違えては、いいパフォーマンスは出せません。

止まっている状態から瞬発的に大きなパワーを発揮するには、筋肉を過緊張させずに緩める必要があります。
その時に、母指球に力が入っていて、つま先重心になってしまっては、前ももなどの身体の前面の筋肉に力が入ってしまいます。
例えば、両足を肩幅くらいに開き、できるだけリラックスして立ちます。
そこから足の母指球に重心を移し。重心をつま先側に乗せると、太ももの前側や体の前面に力が入ってしまうことがわかると思います。
逆に重心を完全に踵の方へ乗せると、これもまた全身に力みが起こると思います。
1番リラックスできるポジションはその間の、前すぎず、後ろすぎないところにあるのがわかると思います。
骨格から考えると、母指球ではなく、内くるぶしの下に重心を置くことです。
内側のくるぶしは脛骨の末端、外側のくるぶしは腓骨の末端にあるので、その下に重心を持ってくることで、筋肉がリラックスでき、バランスよく立つことができます。

重心をどこに持ってくるかで、働く筋肉が変わり、姿勢も変わってくるということです。

次に歩く時の足の裏に注目してみます。
歩く時の前に出した足は、踵から地面に着きます。
次に小指側の付け根(小指球)が着きます。
そして、小指側の付け根から、親指の付け根に向かって、倒れるように着いていき、母指球が着き、足の裏全体が地面に接地します。
地面から離れる時は、踵を持ち上げ、小指球が先に地面から離れ、最後は親指の母指球で地面を押し出すようにして足の裏全体が地面から離れて行きます。

つまり、止まっている状態から瞬発的に大きなパワーを発揮するには、母指球をリラックスさせた状態から、踵(内くるぶし下)を踏むことにより、前方への加速度を高め、小指球から、母指球に重心が移動し、最後に母指球で地面を押すことで素早く動くことができます。
母指球は、最期の一押しで働くということです。

この動きは、ランナーでスタートを切るときも、守備でスタートを切るときも、ピッチングでも、バッティングでも同じです。

初めから母指球に力を入れることは、つま先の方に支点ができ、後ろへ重心を移動する力が働きます。
これは、前方に早く動きたいにもかかわらず、後ろに体を動かそうとする動きです。
これでは高いパフォーマンスは発揮できません。

高いパフォーマンスを発揮できている選手というのは、そこまで母指球に力を込めているわけではなく、動きの最後の一押しに母指球に力を入れている程度です。
これを間違って受け止め、「母指球」や「つま先」が重要のように捉えて過剰に母指球を意識することで、身体への筋肉の緊張を生み出してしまい、瞬発力やパワーを発揮することができなくなってしまっています。

また、母子球で支える、前に傾く立ち方だと、身体のバランスが崩れ腰痛などを引き起こす原因にもなります。
股関節や膝関節、足首にも負担をかけたり、外反母趾の原因になることもあります。
逆に、内くるぶしの下に重心を置く、筋肉がリラックスした立ち方ができると、脚の前後の筋肉や腹筋と背筋のバランスがよくなり、楽に気持ち良く立てるようになります。
一流選手の高いパフォーマンスは、この優れたバランスを保てる姿勢に支えられています。

 

実際に、母指球をどう使うのかは、とても重要なことです。
しかし、小学生や中学生くらいだと、なかなか理解できずに、母指球を過剰に意識してしまい、母指球で踏ん張ったり、力を入れるだけになってしまっている選手をよく見ます。
さらに、大人よりも筋力がなく、関節が柔らかいので、腰痛や関節痛につながっているケースもあるのではないかと思います。
個人的には、小学生や中学生くらいの選手に細かく母指球を意識させることで、怪我につながり、将来の可能性を狭めるよりも、自然に任せて大きく育て、身体ができてから複雑な動きを学び始めた方がその選手のためになるのではないかと思います。

少ない練習で上手くなるには。

前回の投稿で練習をすればするほど上手くなるわけではないという話をしました。
でも、勘違いしてほしくないのは、だからといって、練習をしなくても上手くなれると言っているわけではないということです。
上手くなりたければ上手くなるための行動をしなければなりません。

今回はそのやり方についての話です。

 

今のやり方のままで、練習量だけ減らせばいいかというとそうではありません。
上手くなるためにはそれでは難しいと思います。
質を上げなければなりません。
そのために大切なことが、夢中になって練習することと、効率的に練習するために、考える習慣をつけることです。
夢中になって練習するというのは、自分から楽しいと思って取り組めばできることです。
例えば、テレビゲームに夢中になるのは楽しいと思って自分からやるからです。
それと同じ状況を作って練習に取り組むということです。

考える習慣をつけるのは、環境が重要になります。
創造力があれば、考えるレベルはさらに高くなります。
大人が答えを教えすぎずに、自分で考えることで育まれていきます。
ミスをしても、できなくても怒られないという安心感があれば、いろいろなことにチャレンジすることができます。

創造力を働かせ、探究心をもち、チャレンジして練習する。さらにそれを夢中になってできれば、成長が見込めるのではないかと思います。

 

しかし、エグゼクティブなアスリートを目指すなら、さらに身につけなければならないことがあると思います。

それは、普段の生活と競技をつなげるということです。

グランドで練習している以外の時間をどう使うのかが重要です。
それは、「その競技が好きで楽しい、もっとやりたい、上手くなりたい」と強く思わなければできません。
そう思えれば、遊びや生活がトレーニングになってきます。

僕が見てきた、一流のプロ野球選手は全員これができています。
生活自体がトレーニングであり、競技が趣味や遊びのようでもあり、そこの境界線が曖昧です。
身体を動かすだけが上達の手段ではありません。
食べることも寝ることも質を上げれば自分にプラスになり、競技力の向上にもなります。
食事が競技のためであり、歩いているだけでも姿勢に気をつけたりと、私生活の中でも、どう競技にプラスになるのかを常に考えて行動します。
競技が義務ではなく、生きがいであり、プレーすることに喜びを感じ、成長する意欲に溢れているので、どこかに成長のヒントがないかと、常にアンテナを張って過ごしています。
知らなかったことを知るということは大切なことで、何かを調べて自分の知識になれば、それも成長であると考えます。

 

僕自身の子供の頃を思い出してみると、山を走り回ったり、木に登ったり、崖をよじ登ったりといった環境や遊びの中で五感を磨き、競技の土台を作ってきました。
僕の小中学生の頃の練習は土日だけでしたが、壁当てをしたり遊びで野球をすることが日課でした。
チームの練習は、トータルしても週に10時間もありませんでしたが、生活の中心が野球であり、野球に触れることが好きで何よりの喜びでした。
サッカーなど他の競技も好きでよくやっていましたが、すべてが野球につながっていました。

ドミニカ共和国の子供たちの話を聞いても、練習時間は短いですが、いたるところで野球をして遊ぶ姿があると聞きました。
硬式球ではなく、何かを上手く丸めて、それをボール代わりにして遊んだりするそうです。
練習の中だけでなく、遊びの中で競技力が磨かれていくということです。

競技が楽しくてやりたいと思うことが成長につながるということです。

 

指導者の中には厳しさを教えることも必要だと考えている人も多くいるように感じます。
厳しさを教えないと将来のためにならないと思うかもしれません。

厳しさを教えたいのであれば、能力を上げてあげることです。
上のレベルに行けば行くほど厳しさを知ることができるからです。
プロ野球まで行けば、本当に厳しい世界なので精神的にも強くなります。
プロ野球選手になれなくても、目標が高くなればなるほど、厳しさが増していきます。
わざわざ指導者が厳しさを教えなくても、立場が人を育てるので、より上の立場になることができるスキルを身につけさせてあげることのほうが必要だと思います。

 

部活動のガイドラインが発表され、少ない時間で効率よく活動することが求められています。
これは、短時間に集中して、質の高い練習をするということだけでなく、部活動以外の時間を有効に使って自分自身を成長させましょうということです。
今までのやらされて長時間やる練習から、主体性を持って、自ら学ぶという方向に変わってきたということです。
時間を有効に使うことを身につければ、今まで以上にいろいろなことにチャレンジできるようになるので、成長が期待できます。
様々な経験をたくさんし、それを競技や人生に活かしていってほしいと思います。

練習すればするほど上手くなる?

よく「練習をすればするほど上手くなる。」「上手くなるには誰よりも練習しなければいけない」といったような話を聞きます。
それを信じて、休みなく練習したり、長時間練習するチームが多くあります。
本当に正しいのでしょうか?

そんな話を書いてみます。

 

もし、練習をすればするほど上手くなるのであれば、メジャーリーガーが日本人ばかりになるはずです。
日本人の練習量は世界的に見ても上位です。(トップと言いたいところですが世界のすべてを知っているわけではないので)
しかし、そうはなっていません。

僕は、小学2年から野球を始めましたが、高校に入るまでは、土日、祝日しかチームでの活動がありませんでした。
土曜日は学校があったのでチームの練習は14時から17時くらいまで。日曜日は朝から夕方まででした。
高校に入学するまでの練習時間は週に10時間以下くらいだったと思います。

メジャーリーガーを多く輩出しているドミニカでは1日やっても3時間。
アメリカの環境を聞いたときも同じような話を聞きました。

練習を多くやったからといって上手くなるわけではないということです。
海外の選手が証明してくれています。

アメリカや中南米、欧州では、投げ込みや走り込みのような「○○込み」というようなことをやりません。
それをやらなくても上手くなれるし身体は鍛えられるということです。

 

プロ野球のキャンプが4勤1休や5勤1休が中心で3勤1休の場合もあります。
時間も14時くらいには終わります。
アメリカメジャーリーグのキャンプは11時にはチームの練習が終わると聞きました。

身体もできていて、体力もある選手が集まるトップのチームがこのくらいです。
身体も体力も未熟な子供たちは当然それ以下で練習を行うべきだと思います。

身体に大きな負荷をかけてやる練習は、少なくとも身体の成長が止まって大人の身体になってからだと思います。

本来、指導者はブレーキ役になるべきです。年齢が下がれば下がるほどその役割は重要になります。
成長期の子供たちにとって重要なことは、適度な運動と食事と睡眠です。
学生は特に、食事と睡眠が重要だと思っています。

食事は、生きるための栄養に加え、身体の成長に必要な栄養も摂取する必要があるのでとても重要になります。

睡眠は、成長ホルモンが寝ている間に最も多く分泌され、十分な睡眠時間を確保できなければ、疲労も回復せず、心身ともに成長の妨げになるということは言うまでもないと思います。
朝練や夜遅くまで練習があるために、睡眠時間を削るということは、当然故障のリスクも上がり、集中力も高い状態にならないので、練習してもなかなか身になりません。
練習だけでなく、授業中などの学校生活にも支障をきたすことにもなります。

適度な運動という部分では、成長度合いにもよりますが、可動域や柔軟性、瞬発力や俊敏性のような脳や神経や筋肉の連動を高めるためのトレーニングを適度にすることは重要ですが、骨がまだ成長している子供に対して、筋肉の量を増加させることが目的のトレーニングは必要ないと思っています。
身体をでかくして、筋力をつければ、試合での勝利は近づくかもしれませんが、成長期の子供たちにとって、もっと重要なことは、身体の成長を促し、将来を見据えることです。
筋トレや過度な食事トレーニングで早く身体を作るのではなく、少しでも身長を伸ばす努力をすることです。

過剰なトレーニングを肯定する意見はアマチュアの指導者から良く聞きますが、トレーニングの専門家や医療関係者から聞いたことはありませんし、科学的なデータも見たことがありません。

中身が濃く、質の高いトレーニングをすれば、それだけで選手たちは相当に疲労します。
その疲れた筋肉や関節をさらに酷使することで、故障につながったり、動きの質を低下させます。
動きの質が低下した動きを身体が覚えれば、パフォーマンスの低下になります。

成長のスピードは人により異なります。
なかなか伸びない時期もあります。
その時は、練習が足りないと、過度の練習をやらせることは逆効果になってしまうことがよくあります。
そういう時こそ、好きなことをして、好きなだけ食べて、ゆっくりと休むことを勧めるべきです。
自分から「上手くなりたい」「練習したい」と思わせることが指導者の役割です。
練習が義務になってしまっては、いい練習はできません。

 

「練習量と実力は比例しない」ということを認識する必要があると思います。
選手と指導者が一緒になり、少ない時間で効率的に上手くなるにはどうしたらいいのかを考え続けることで、創造力が育ち、チャレンジ精神が身につき、自分自身で成長できる選手に育っていくと思います。

創造性を育てる。

前回の投稿で、「創造性(創造力)」について書きました。

では、創造力をつけるには、どのようにしたらよいのでしょうか。
今回は、それを考えていきたいと思います。

 

創造力の豊かな人というのは、単純に、創造力を頻繁に使って育つ環境にいたということです。
創造力に乏しい人はその逆で、創造力を使ってこなかったので育っていないということです。

創造力を使う環境を作ってあげることで創造力が身についてきます。
創造力がない人というのは、どうしても失敗を恐れて、今までの方法や、決まりきったことをすることを選択しがちになります。
しかし、このような保守的な姿勢では、創造力は伸ばすことができないだけでなく、せっかく持っている創造力が失われていきます。
失敗を恐れることなく果敢にチャレンジする癖をつけることが大切です。

周りもチャレンジしやすい環境を作ることをしなくてはなりません。

創造力が豊かであればあるほど、チャレンジする機会は増えます。
当然、試行錯誤といったものが多くなり最初から成功するとは限りません。
早く結果を求めたいのなら、すぐに答えを与えるほうがいいのかもしれませんが、それでは考える力は身につきません。
子供が間違えた選択をしたり、ミスをしそうなとき、つい大人が介入したくなるかもしれませんが、そうしてしまうと子供は何も学ぶことができません。
例えミスをしてしまっても、チャレンジしたその姿勢を評価することは、次のチャレンジのハードルを下げることができます。

毎回とは言いませんが、子供を背後から見守り、そのまま子供に間違えさせておくことも必要です。
こういった経験から子供が学ぶことは、非常に多くあります。
また、子供の創造力を伸ばす助けにもなります。

いつも人から課題を出されてばかりいると、与えられることに慣れてしまいます。
そのことによって自分の意思、判断で行動する主体性は育たず、消極姿勢が育っていきます。
常に受け身でいれば、新しいことを発想するという意欲も育ちません。

様々な経験や知識によって、ひらめきが生まれ、創造力が身につきます。
受け身の姿勢にせずに、新しいことを経験させること、工夫させること、よく考えさせること、何かにチャレンジする意欲を育むことが、創造性を育てることになります。

良かれと思って手取り足取り教えたり、教えすぎることが、逆に可能性を狭めてしまうこともあります。

 

それ以外にも、創造力を高めたいのであれば、日々の常識をまず疑ってみることもトレーニングになります。

いつも行うような決められた練習でも、本当にそれがベストか?なぜ、その練習をするのか?と、疑って、自分の頭でもう一回白紙に戻して検証して考えてみることもトレーニングになります。
こういった思考のトレーニングは普段の生活のさまざまな場面でもすることができます。
このような考えを習慣にすることは、創造性を身につけるのにとても役に立ちます。

特別なトレーニングをしなくても、普段の生活や遊びの中での自由な発想から考える力が育まれていきます。

 

創造力が高まると、仕事と遊びをつなげて考えることができたり、普段の生活からスポーツの技術の向上につなげたりといったことができるようになります。
仕事も勉強もスポーツも人生も別々のものではなく、つなげて考えることができるようになります。

プロ野球選手を見ていても、食事が息抜きや気分転換でもありトレーニングでもあります。
ゴルフが、遊びであり、トレーニングにもなります。
野球自体が仕事であり、好きなことでもあります。
様々なことをつながって考えることができます。

 

創造力が高まると意欲が高まる。意欲が高まると、創造力が高まる。といったようないい流れを生むことができます。
創造力を磨くことは、「生きる力」をつけることでもあり、これからの時代を「生き抜く力」「社会で活躍できる力」を身につけることになります。

視点や観点を変えて考えることにより、発想の余地を感じ、そこから創造性が増していきます。
普段からどうすることがよいのかを考える習慣が身につけば、創造力はどんどん育まれていくと思います。

創造性(創造力)

プロ野球選手になる人となれない人の違いに創造力があります。
これは、野球教室や子供たちを指導しているときにとても感じます。
大半の選手にプロ野球選手が持っているような創造力がありません。

どうしたら自分が成長できるのかと考えるよりも、これは今までにやったことがないからできない。上手くいかなかったらどうしよう。というような考えが先行してしまい、自分の枠から出ることを恐れているように感じます。

指導者は、投げるや打つなどの技術を教えたがりますが、僕は創造力のほうがはるかに重要なスキルだと思っています。
そして、伸ばそうと思えば伸ばせる能力なので優先的に向上させたい能力だと思います。
創造力は、環境によって育っていく反面、環境により失われてもいきます。
創造力が育つ環境に選手を置くことが重要だと思います。

そんな創造力の話をしていきます。

 

創造力とは、自分の考えや技術で、新しいものをつくりだす力。ものを生みだす能力。などのことを言います。
つまり、スポーツでは、新しいスキルを身につけたり、今までできなかったことをできるようにするのに使う能力です。
喜びや楽しみを生み出す能力でもあります。

高い創造力を持っていると、身につけたい技術をひとつのやり方だけでなく、違った方法で習得したり、問題に対して他の人とは違う捉え方をすることができたりします。
他の人が怖くてできないようなリスクを取ったり、大勢に立ち向かい、自分の信念を守るだけの勇気があったりもします。
他の人が屈してしまった障害や課題を乗り越える方法を探し、チャレンジすることもできます。
創造力によって、どう自分自身を成長させようかを考えることができます。
普段やっている練習に対しても、「この練習は、本当に意味があるのか」「どうしたらもっとよくなるのか」といったような考えなので、どんどん練習がカスタマイズされていきます。

創造力のない選手は、思考の停止を意味するので、同じことを永久に繰り返したり、誰かと同じ行動をし続けたり、言われたことしかできない、といった行動になります。
自分から楽しみを生み出すことができないので、モチベーションも上下してしまいます。
これでは、なかなか上手くなることもできません。

創造力は、練習の意欲を上げるのにも、とても重要です。
「次は、こう練習したらこんなことができるようになるのではないか」
そう考えるだけでワクワクしてきます。
そうなると、さらに創造力が増し、もっと意欲が増します。
「早く、練習で試してみたい」というような感覚になっていきます。
進んで練習に取り組むこともでき、練習の質も量も上げることができます。

練習は大切ですが、根性勝負で、ただ辛い練習をしたり、長い時間を費やすだけでは効率的ではありません。
創造性を欠いた、機械的な反復練習よりも、探究心にあふれた練習こそ、意欲的に練習に取り組むことができるので、効率的な練習だと思います。

このように、創造性と意欲には、深い関係があります。
それは、創造性は、人間が持っている本能だからです。
特定の人だけに備わった才能ではなく、人間なら誰でも生まれ持っている能力だということです。
本能だけで動く子供が創造力に溢れていることからもわかると思います。

創造力が、やらされる練習ではなく、自分からチャレンジし、自ら練習をする原動力になります。
あるとないでは、成長に大きく関わってきます。

創造力の大きさは可能性の大きさでもあります。
創造力が働かなければ、それだけ可能性も狭まってしまいます。

これからの時代を生き抜いていくには、創造力はこれまで以上に重要になるのではないかと思います。
創造力は、まさに「生きる力」「生き抜く力」「社会で活躍できる力」であると言えます。

 

どのような場面で創造力が発揮されるのかを考えてみると、今のままでは不安だという、現状に対する不満が創造性を促したりします。
また、こんなやり方を思いついたという、ふと思い浮かぶこともあります。
行動を起こしていく過程で、新しい発想が生みだされることもあります。

スポーツは、本来、創造力を育むのに適しています。
スポーツとは、強制されて行うのではなく、自らの判断で、自由にプレーを想像して行うのがスポーツだからです。

創造力は、いろいろな場面で発揮されますが、創造力には、個人差があり、トレーニングによって育てることが可能だと思っています。
せっかく人間みんなに備わっている能力なので、それをさらに育てていく努力をするべきだと思います。

ACLやMCLの損傷を予防する。

前回、膝のACLと肘のMCLについて書きました。→ACLとMCL(前十字靭帯と内側側副靭帯)
その続きとして今回は、どのように予防したらよいのか、どのようなメニューを選手に提供するべきなのかを考えてみました。

テクノロジーの発展により、膝のACLと肘のMCLだけでなく、様々な怪我の研究が進んできています。
怪我の発生メカニズムがわかってきています。
トレーニングも日々発展してきています。

では、なぜこんなにトレーニングが発展し様々な研究が進み、科学的にも、怪我の発生メカニズムがわかってきているのに、多くの選手が怪我をしてしまうのかを選手目線から考えてみました。

 

それは、選手の目的は怪我や故障をしないためではないからです。
選手は、パフォーマンスを向上させるためや、試合での勝利を目指して、一生懸命になります。
そこを無視して、故障をしないためだけに、一生懸命に努力している選手を見たことがありません。

例えば、肘が万全で、バンバン試合で投げている野球選手に、「肘の故障の予防のために、このトレーニングをするように」と言っても、このトレーニングを続けられる選手はなかなかいないと思います。
膝でも同じで、今まで膝になんの障害もなかった選手に「膝の故障の予防に、このトレーニングを続けるように」と言っても、このトレーニングを続けられる選手はなかなかいないと思います。
そんな時間があるなら、パフォーマンスが上がるようなトレーニングや練習をやる方がいいと考えてしまいます。
こんなに、膝や肘を傷める選手が多くても、自分は大丈夫だと思っている選手が大半だと思います。
僕もそんな選手のひとりでした。
肘を傷める選手を見ても、自分は大丈夫だと思っていました。

選手は、自分のパフォーマンスを向上させることができると思ったら、傷めるリスクを考えずに、何百球も投げ込むということをします。
これをやれば試合に勝てるようになると思えば、何時間も走り込むこともします。

多くの選手は、「上手くなる」「強くなる」「試合に勝てる」などと思えば、自分の身体にマイナスだということは頭の中から消えてしまいます。

30年前は、当たり前で、今は、笑い話に使われ、みんながあり得ないと思う、練習中や試合中に「水を飲むな」というのも、その方が上手くなれる、強くなれる、試合に勝てる、と思われていたからそうしていました。

選手も指導者も、身体を守るという意識よりも、「上手くなりたい」「強くなりたい」「試合に勝ちたい」といった意識の方がはるかに強いということです。

30年後に笑い話になる、現代版の「水を飲むな」が、今やっていることの中に、存在しているということを頭の中に入れておかなければなりません。

 

では、どのようにアプローチするのが良いのかというと、選手が「上手くなる」や「強くなる」や「試合に勝てる」と思うような練習やトレーニングで、ACLやMCL損傷の予防にもなるメニューを提供するということです。

僕は、ACLやMCLを傷めないようにすることと、パフォーマンスを向上させることは同じだと思っています。

前回の投稿で書いたこと(ACLとMCL)は、パフォーマンス向上につながります。

ACLを守るために重要な、ハムストリングスと股関節の使い方を向上させることは、ストップ動作や切り返し、ジャンプの着地などを安定させるので、そのような動作を行うスポーツでは、その競技自体のパフォーマンスの向上につながります。

野球では、投球の際に肘のMCLを守るために重要な、投球フォームや屈筋・回内筋群の収縮を向上させることは、球速、コントロール、スタミナ、など投げる動作の様々なパフォーマンスを向上させることにつながります。

ACLやMCLを守るためだけのメニューではなく、パフォーマンスを向上させるメニューでなければ傷めていない選手や傷めたことのない選手は、なかなかやりません。

現状、多くの指導者が選手の身体を守ることよりも、試合に勝てるようにすることを優先するので、その環境で育った選手が自分の身体を犠牲にしてでも勝ちに行くのは当然のことだと思います。

だからこそ、僕が心掛けるのは、パフォーマンスが上がり、勝ちに近づけるようになることと、怪我や故障の予防が両立できるメニューを提供するということです。

それと同時に、選手の知識を増やしてあげることも重要なことです。
フォームや動きの改善、トレーニングの研究、疲労に応じて必要になる休息時間の把握、動きの違いによる靭帯への負担の違いの理解、等、選手自身で取り組めるようになることで、パフォーマンスの向上にも、怪我や故障の予防にもなります。

手術の技術が上がり、靭帯を断裂しても、復帰できるようにはなってきました。
しかし、1番大事なことは、受傷しないことです。
そのためには予防をすることです。
予防をすることによって、膝のACLや肘のMCLを損傷したり断裂する選手がいなくなることを願っています。

ACLとMCL(前十字靭帯と内側側副靭帯)

先日、膝の前十字靭帯(ACL)再建手術の経過の確認で診察に行ってきました。
術後5年経ち、お陰様で全く問題なく、完治したと言えるくらい回復しました。(ドクターのお墨付きもいただきました)
肘も肩も手術したことがありますが、これも完治したと言っていいと思います。

野球選手でACLの手術を受ける選手はほとんどいませんが、サッカーやラグビー、バスケットボール選手などには多くいます。
特に女子サッカーや女子バスケの選手には、かなり多くの選手がACLの手術をしています。(高校生で3度手術している選手を見たことがあります)

野球選手は、トミー・ジョン手術と言われる、肘の内側側副靭帯(MCL)再建手術を受ける選手が多くいます。
最近では、大谷選手が手術をしました。
トミー・ジョン手術は内側側副靱帯を損傷した選手に対して、プロ選手のみならず若いアマチュア選手の間でも手術されるようになっています。

その膝のACLと肘のMCLの損傷や断裂について考えてみます。

 

ACLやMCLの損傷は、スポーツの問題のひとつだと思います。

ACLやMCLは、断裂してしまえば、自然に修復することはできないので、他の靭帯を移植する手術が必要になります。

あまりにも多くの選手が膝のACLや肘のMCL再建の手術をし、競技人生を短くしたり、引退に追い込まれたりしています。
そして、同じ選手が何度も同じ手術をしているという現状もあります。

しかし、ACLもMCLも、どちらも知識があり、予防の意識を持つことで、かなり防げるのではないかと思っています。(個人的には接触での怪我以外は限りなくゼロに近づくと思う。)

僕自身、ACLは断裂、肘のMCLは損傷していますが、予防という意識がなかった結果、そうなったと思っています。

今なら、知識が付き、どう予防すればいいのか、わかっているので、自信を持って傷めないと言えます。

ACLは、接触プレーでは、防げない場合もあると思います。
しかし、接触以外で傷めることは防ぐことができると思っています。僕が傷めたのもそうですが、多くが、止まる動作や切り返しや着地の時に傷めてしまいます。

野球選手の肘のMCLは、接触プレーで傷めるわけではなく、投げることによって傷めるのでこれは防ぐことができると思っています。

ACLを守るには、大腿四頭筋(前もも)とハムストリングスが重要になります。
大腿四頭筋が単独で収縮するとACLには、伸ばされるストレスがかかります。
これに対して、ハムストリングスを収縮させることで、ACLを助けることができます。
実際のスポーツ場面では、ストップ動作や切り返し動作で大腿四頭筋のみではなくハムストリングスも収縮させることで、膝関節は安定し、ACLにかかるストレスは減らすことができます。
特に、女子選手を見ていると、筋力が低い上に、ストップ動作の際にハムストリングスがうまく働かず、大腿四頭筋優位でストップする傾向にあるように思えます。
(野球の投手で、投球の際に、ステップした脚の膝が割れたり、グラつく選手も同じで、着地の時に、ハムが収縮していないから膝が安定しない。)
そのためには、大腿四頭筋とハムストリングスに注意を向けるだけではなく、そこが上手く機能するように、股関節のアライメントや動きに注意を払わなければなりません。

また、ACLが断裂したままプレーすると、半月板損傷も起きてしまうので、そのままプレーすることは、かなりのリスクがあるといえます。
競技レベルにもよりますが、半月板や軟骨損傷などの傷害につながるので、そうなる前に再建手術を受けることが大切だと思います。

 

野球選手が肘を守るためには、投球フォームと回内・屈筋群の収縮が重要になります。
この筋肉の収縮が重要とはいえ、小さな筋肉なので、あくまで投球は、腕や手に頼るのではなく、体重移動と身体の回転運動優位で投げることです。
極端にいえば、肘を使わないで投げたら肘を壊すわけがありません。
これは肩にも言えることです。
肘関節や肩関節の負担をどう減らしていくかを考えることが大切です。

とは言うものの、投球数が増えたり、それに応じた休息期間や、球速による負担の考慮、などがなければ、疲労の蓄積により、傷めるリスクは上がります。
疲労が蓄積されれば、柔軟性が落ち、可動域が十分に確保できず、フォームに問題が出ることが考えられます。
筋肉が働かなければ、関節に負担がかかります。

受動喫煙も血流を悪くするので、故障の発症要因になると言われています。

 

様々な方向からリスクを減らす努力をすることで、スポーツ選手の怪我を予防できると思います。
僕自身が、ACLやMCLについて、経験し、自分自身の身体を使って検証し、学んできた中で思うことは、もっと予防できるということです。
サッカーやバスケットボールの指導者なら膝のACLの知識。
野球の指導者なら肘のMCLの知識を持つことは選手のために重要なことです。
多少の知識があるだけでも、今よりも格段に選手の身体は守られるようになると思います。

 

ACLやMCLの損傷や断裂の予防についての話は、また、次回しようと思います。

成長するのに大切な思考。

優れたスポーツセンシングを持った人とは、思考技術に優れた人のことです。

技術なので、投げるや打つといったような技術と同じで、無意識に落とし込んで、自動化された技術になるようにしなければなりません。
つまり、行動を決めるときに考えて決めるのではなく、自動化された脳が自然と行動を決めるようにすることが大切です。

優れたスポーツセンシングを持った人とそうでない人の違いのひとつである行動を決める思考について考えてみます。

 

スポーツセンシングのある人と、ない人の思考の違いのひとつに、「成長したい」「学びたい」という思考が先にくるか、「恥をかきたくない」や「自分をよく見せたい」という思考が先にくるかの違いがあります。

「成長したい」「学びたい」という思考のほうが強ければ、挑戦を喜んで受け止め、努力は成長へつながると考え、逆境に立っても批判を受けても成長につながると考えるので耐えることができます。
他の人の成功から学んだり、真似たりすることもできます。
根本にあるのが「成長したい」「学びたい」という考えのため、全てをどんどん吸収し、高いレベルへと成長していきます。

それとは反対に「恥をかきたくない」や「自分をよく見せたい」という思考のほうが強いと、失敗する可能性がある挑戦を避けたり、努力は実を結ばないと思ったり、諦めが早かったりします。
批判やネガティブな意見に対し、自分で考えずに同意してしまったり、他人の成功に焦りを感じます。
自分の評価を、「よく見られているか」「賢く見られているか」「成功しているのか」「バカに見られていないか」と考えてしまいます。

そうではなく、自分の評価は「まだこれから」と思い、努力によって変えられると考えることで、情熱を持ち練習やトレーニングを続けることができます。

行動の基準が「上手く見せること」ではなく「上手くなること」ということです。
上手く見せようと練習すると、「ミスをしない」ということを考えてしまうので、チャレンジすることをしません。
上手くなろうと練習すると、どうしたら成長できるかを考えるので、どんどんチャレンジできます。

例えば、プロ野球選手が行う、野球教室で、たくさんの選手がいるところで「誰か出てきて見本で投げてみて。それを教えるから」と言ったとします。
多くの選手は手を上げませんが、成長する選手は、上手い下手関係なしに手を上げます。
それは、「恥ずかしい」や「上手くできなかったらどうしよう」と思う以上に「上手くなれる」「直接教えてもらえる」といったような思考を持っています。

それは、学校の授業でも同じです。
例えば、数学の授業で、「誰かこの問題を前に出てきて解いてください」と言われたときに、わからない時こそ手を上げて前に出て、解くべきです。
そうすれば、自分のわからないところを、先生に教えてもらえるので、成長につながります。

 

このスポーツセンシングのある人と、ない人の思考の差はとても大きいと思います。

センスは、持って生まれた能力ではなく、家庭や環境などから、後天的に身につけた能力というのが僕の考えです。
この「成長したい」や「学びたい」と「恥をかきたくない」や「自分をよく見せたい」という2つの考え方も環境によって変わってくると思っています。

小さい頃から、いいプレーをしたときに「才能があってすごい」と褒め続けるのと「よく練習してすごい」と褒め続けるのでは違います。
才能や能力を褒め続けられると、その選手は、いいプレーができなかった時に「能力がない」「才能がない」というように感じてしまう傾向にあります。
そうすると、上手くいかないプレーが続くとチャレンジしなくなり、簡単にできることばかりやる傾向になります。
上手くいかないと楽しむこともできなくなり、どんどんやる気をなくしていきます。

それに対し、努力を褒められ続けると、上手くいかないときに、もっと努力をしようと考えます。
努力することに意義を感じるので、難しいことへもチャレンジし楽しむことができます。
チャレンジを楽しめるので、練習も続けられ、成長につながります。

このようにして環境によってセンスが磨かれていきます。

この2つの考え方は、評価に対する考え方も違います。
成長する人は、今までの自分と比較して成長していることを評価します。

それに対し、周りの人と比較して自分の評価を決めます。
これは大人になれば必要ですが、子供のうちは成長スピードにも個人差があり、たまたま良いライバルがいれば良いかもしれませんが、自分が成長しなくても周りよりも優れているから良いと考えてしまっては成長が止まってしまいます。

 

「相手がどう」と考える前に「自分がどうなのか」を考えることが大切で、自分の能力は自分自身の努力で変えていけると考えることが重要です。
もちろん、努力をしたからといって、イチロー選手や大谷翔平選手のようになれるかはわかりません。
しかし、自分の能力は、まだわからないと考えることで、練習やトレーニングを高い意識を持って、続けることができると思います。

ウォーミングアップとトレーニング。

競技をするにあたり、ウォーミングアップは大切です。
これは多くの人が認識していると思いますが、本当に最適なウォーミングアップができているのかと考えると疑問が残ります。
それは、僕自身が、現役のころにしてきたウォーミングアップを思い出すと、もっといいアップができたのではないかと、強く思うからです。

今まで、やってきた中や、見てきた中で特に思うことは、
「ウォーミングアップとトレーニングを明確にするべき」
ということです。

そんな考えを書いてみました。

 

野球では、ウォーミングアップがトレーニングを兼ねていることがよくあります。
指導者やトレーナーはそう思ってやらせていますが、やっている選手は、アップだと思ってやっていることがほとんどです。

では、なぜアップをするのかというと、「怪我の予防」と「ベストパフォーマンスをするため」だと思っています。
そのために必要なことは、まず、体温を上げることです。
体温が上昇することで体内の血液の循環が良くなり、酸素の供給がスムーズになります。
それにより、筋肉の温度も上がり、筋肉の柔軟性が高まります。
そこで、筋肉や関節を伸ばすことで、可動域を広げることができます。
筋肉の動きと神経のつながりを高め、反応を良くすることにもなります。
血流がよくなることで、脳も活性化します。

自律神経を整えることで、心理面でも試合や練習の準備をします。
集中力を高めるだけでなく、緊張感が過度にある場合はストレッチなどで緊張をほぐすこともできます。

一度、心拍数を上げておくことで、心肺機能を激しい運動に順応させることもアップでやらなければならないことです。

また、その日の体調を含めた、自分の身体をチェックすることもアップの重要な要素です。

ウォーミングアップが不足すると「怪我の予防」と「ベストパフォーマンスをするため」という、アップの目的を果たせません。
逆に、やりすぎて、疲れてもベストパフォーマンスは出しにくいので、やりすぎも良くないということです。

瞬発的な運動前には体温が低すぎたらパワーが発揮できないので体温を上げる必要があります。
逆に、体温が高すぎたら、早期に疲労してしまうので、持久的な運動前には体温を上げ過ぎないようにします。

それに対してトレーニングは、「競技力を高めるため」に行います。
スポーツをする上で必要な基礎的な体力に加えて、野球選手として必要な体力を強化することや技術を身につけることがトレーニングです。
ポジションにもよりますが、瞬発力や素早い動きができるよう、筋力や瞬発力を高めたり、呼吸、循環器系の働きを高める持久力のトレーニングも競技力を高めるためには大切です。

 

このように考えると、やっている選手が、どこまでがウォーミングアップで、どこからがトレーニングかを理解していないと、アップが十分だと感じている選手は体力の温存をしようとします。
そうなるとトレーニングの効果が十分に得られるか、わからなくなります。
選手それぞれが、そのメニューを何のためにやっているのか、理解することが重要です。

例えば、アップで行うアジリティのメニュー。
加速、減速、スピード、方向転換、身体操作などを高めるために行います。
そのため、いかに素早く身体を動かせるかという神経系の伝達を高めるためのメニューです。
高速で身体を正確に自由に動かせるようになるためのものですが、よく見るのが、アップの中に入っているので、ウォーミングアップの延長になっていることです。
効果的なメニューにするには、全力で動くことで、ゆっくりやってしまうと求めている効果が期待できないということです。

そうならないためには、ウォーミングアップとトレーニングを明確にするべきだというのが僕の考えです。
何のために何をしているのかを明確にするということです。

 

アップで、自分の身体と向き合わず、何も考えずにアップしていては、いつまでたっても自分の身体を把握できません。
大きな声を出させることを求め、身体を動かさせ、とりあえず走らせて温まっている状態にするというのでは、アップの目的を果たせるとは思えません。

大きな声を出さなくても心理面の準備を進め、自分自身で、練習や試合に対して準備できる選手に育てていくことが重要だと思います。

ひとりで、自分の身体と向き合いながら「怪我の予防」と「ベストパフォーマンスをするため」の準備ができるように導いていくことは、指導者が選手にしてあげなければならないことのひとつではないかと思います。

捕手に必要なスキル。

今回は投手ではなく捕手について考えてみます。
考え方は、投手だろうと捕手だろうと同じです。
何のために練習をして、それによって何ができるようになるのかです。

そのためには、捕手が試合で要求されるプレーは、どのようなプレーがあるのかを知っておく必要があります。

そんなことを考えてみました。

 

捕手に必要なスキル。

・構え
・キャッチング(フレーミング)
・ブロッキング
・スチール阻止
・バント処理、打球処理
・送球捕球、タッチ
・中継プレー(判断、声)
・サインプレー
・バックアップ
・挟殺プレー
・WP、PBからの送球

 

ひとつずつ説明していきます。

・構え
構えが悪いと、キャッチングやブロッキング、スローイングも上手くいきません。
サインを出す時の構えも考える必要があります。膝やミットを上手く使い、ランナーやランナーコーチャーからサインを見られないようにすることも重要です。

・キャッチング
投球をしっかり捕ることはもちろんですが、フレーミングといわれる、ストライクゾーンにきたボールを確実にストライクを取ってもらい、どちらとも取れるようなギリギリ際どいコースのボールをストライクに見せる技術です。
データ上では、このフレーミングの技術が捕手の能力の中で、最も試合の勝敗に影響を与えるといわれています。
盗塁を阻止することが目立ちますが、それよりもフレーミング技術の方が、はるかに使う機会が多いのでしっかり磨くことが重要です。

・ブロッキング
ワンバウンドの投球を止める技術です。
ロッテ時代、里崎さんは試合前に欠かさずに、スローイングと合わせて、練習していたことを思い出します。

・スチール阻止
盗塁には、2盗、3盗、ディレードスチール、1塁3塁ダブルスチール、1塁2塁ダブルスチールがあります。
盗塁に素早く反応し、早く正確に投げる技術です。
試合の流れを変えることができるプレーでもあります。

・バント処理、打球処理
打球への反応を含めた、ボールを捕球するまでの速さ、捕球から送球をまでの速さ、送球を含めた正確性などが重要です。
キャッチャーフライに対する、対応も大切なスキルです。

・送球捕球、タッチ
送球を捕る技術と、そこからタッチにいく技術です。
状況に応じて、捕り方を判断する必要があります。余裕があれば、ハーフバウンドを下がって捕ったり、前に出て捕ったりできますが、間一髪ならそのままベース上で勝負しなければなりません。
満塁では、フォースプレーになるので、触塁の技術も必要になります。

・中継プレー(判断、声)
カットマンを使うのか、ダイレクトに送球させるのかを、瞬時に判断し、それを野手に伝えることです。
どこに送球させるのかを判断し、伝えることも重要です。

・サインプレー
けん制球、バントシフト、ピックオフなどがあります。
投手や野手とタイミングを合わせることが重要です。

・バックアップ
主に1塁への送球が暴投になったときに備え、カバーに走ることです。

・挟殺プレー
ランナーを塁間に挟んだ時のプレーです。
判断力と走りながら投げたりするスキルが必要です。
チームによって決まり事が違うので、それを理解した上でプレーを選択します。

・WP、PBからの送球
ワイルドピッチやパスボールの後のスローイングです。

 

上記のスキルから、相手を観察し、データと組み合わせ、配球を考えることも重要なことです。
また、打者を打ち取るための考え方や、試合で勝つための考え方も持っておく必要があります。

捕手に限ったことではありませんが、特に捕手は目の使い方が重要になります。
周辺視野を含めた視覚や聴覚を使った判断力もスキルになります。
目の使い方が悪いと、ピンチになるとキャッチングやブロッキングが変わってしまったり、大舞台になればなるほど、パフォーマンスが落ちたりしてしまいます。
ピンチやチャンス、プレッシャーに強い選手は、目の使い方が優れています。
それだけでなく、相手を観察できるので、配球を考えることができたり、相手の作戦に気がついたりできます。
また、相手だけでなく、チームメートの観察もできるので、試合を優位に進めるのにも役に立ちます。

 

捕手はやることがとにかく多いので、プランを立てて時間を有効に使うことが大切です。
試合になれば、相手チームの情報を頭に入れなければいけません。
自チームの投手の能力や性格も把握しなければなりません。
でも1番やらなければならないことは、自分の成長を考え、行動することです。
そのためには、自分を客観的に見る能力を養い、どこをどう成長させるべきかを考えることができる選手になることです。
この投稿に、そのヒントになることが少しでもあればと思います。

投手に必要なスキル。

前回「投球に必要なスキル。」を説明しましたが、投手は投球以外にも試合に勝つためには、身につけておきたいスキルがあります。

投球技術を身につけるのと同様、この能力を身につけるために、今これをしていると思って練習に取り組むことが大切です。

今回は、前回の投稿で書いた投球以外で投手に必要なスキルを説明します。

 

投手が試合で関わるであろうプレーは以下です。

・ベースカバー
・打球処理
・バント処理
・バントシフト
・けん制球
・スチール阻止
・挟殺プレー
・カバーリング

今回も1つずつ説明していきます。

・ベースカバー
1塁ゴロの時の1塁のベースカバーです。
バッターランナーよりも早く、送球を捕りながらベースを踏むという技術です。
一塁手からだけでなく、1、2塁間の打球に対して、二塁手からの送球を捕ることもあります。
また、1塁ゴロのダブルプレーでは、遊撃手からの送球を捕ることもあります。
プロ野球では、1塁ゴロがいきそうな打者が打席に立つたびに、捕手や一塁手から「カバー遅れるな」と必ず声を掛けられます。

・打球処理
ゴロやライナーの打球に対する守備です。
捕るだけでなく、ダブルプレーを狙うときなどは捕ったら素早く、正確に投げることも要求されます。
優先は投球なので守備を重視するあまり、投球の質が落ちるのは本末転倒です。まずは自分のベストの投球をして、その中で守備をします。
1塁のベースカバーの声掛けもそうですが、ダブルプレーのときの確認もプロ野球は徹底しています。2塁に誰が入るのか、どこに投げるのか等の確認は、アマチュア野球よりもはるかに徹底しています。
プロ野球選手とは、アマチュア選手ができないようなプレーをすると思われがちですが、もちろんそれもありますが、それ以上に、単純な慣れてしまうようなプレーに対して、全力で準備できることでもあります。

・バント処理
バントに対する対応です。
読み。ボールを捕球するまでの速さ。捕球から送球をまでの速さ。送球を含めた正確性などからなります。
視覚と聴覚を使った判断力もスキルになります。

・バントシフト
野手との連携プレーなので、自分のタイミングだけでは投げられません。
野手とのタイミングを合わせ、自分の持っている投球をできなければなりません。
相手がどう動くのかを感じ、それに対応します。

・けん制球
タイミング、ターンの速さ、球の速さ、正確性、等が重要です。
2塁や3塁へのけん制球では、野手とタイミングを合わせることをしなければなりません。

・スチール阻止
間、タイミング、クイックモーション、けん制、等の組み合わせによりランナーにスタートを切らせないようにします。
けん制球を投げる雰囲気(気配)や打者に投球する雰囲気を出さないということも重要です。
ランナー1塁3塁のダブルスチール時のサインプレーもあります。

・挟殺プレー
ランナーを塁間に挟んだ時のプレーです。
判断力と走りながら投げたりするスキルが必要です。
チームによって決まり事が違うので、それを理解した上でプレーを選択します。

・カバーリング
ホームや3塁(時には1塁)への送球の暴投に備えてバックアップするということです。
特に試合では、打たれたショックからスタートが遅れがちになりますが、そこを如何に早くカバーにいけるかで、傷口を広げずに済みます。

 

これらは、自分自身を助けるプレーであり、チームを助けるプレーです。

ただ、間違えてほしくないのは、投手のスキルの優先順位は、前回の投稿で書いた、投球に必要なスキルです。
どちらも大切ですが、まずは投球のスキルがなければ試合にも出られないし、上のレベルにもいけません。
勝利に最も近づくのも投球のスキルを上げることです。
年俸約30億円の大リーグ屈指のピッチャーであるジョン・レスター投手は先発ピッチャーでありながら、フィールディングやけん制球ができません。
けん制球に関しては年間で1度も投げなかったこともあります。
それでも年俸約30億円の選手です。
このことからも、優先順位は投球技術であるということがわかると思います。

 

前回の投球のスキルや今回のスキルを身につけるために、日々の練習があります。
ただ闇雲に練習するのではなく、何ができるようになるためにやっているのかが重要です。
練習やトレーニングをやることが大切なのではなく、試合で役に立つスキルを身につけることが大切ということです。

投球に必要なスキル。

僕は、何の練習をするにも、練習は手段でなく目的そのものという考え方を持っています。
練習のための練習ではなく成長するためであり、試合で結果を出すために行います。

その練習をすると、どうなるのかを考えて練習に取り組むことが重要です。
投手では、どのようなスキルを向上させたいのかを明確にすることです。
練習ありきではなく、向上させたいスキルを考え、そのための練習を考えます。

投球に必要なスキルを考えると以下になります。
僕の考えなので人によって多少変わるかもしれませんが、参考になればと思います。

 

投球に必要なスキル
・スピード
・球筋
・球威(打者が感じる球の力)
・コントロール
・変化球
・セットポジション
・スタミナ
・リカバリー

これを基に、このスキルをどう使うのかが重要で、配球などの打者を打ち取るための考え方と、試合で勝つための考え方が合わさって投球の能力になります。
僕が思いつくのはこんな感じですが、まだまだあるかもしれません。
この中のどれをターゲットに練習するかを考えることが重要です。

1つずつ説明していきます。

・スピード
スピードガンに表れるスピードです。
あるに越したことはありません。
ドラフト会議を見てもスピードがある選手が高い評価を受けています。
僕が指導をするときに、子供たちには言いませんが、大人には、とにかくスピードを上げるにはどうしたらいいかということを考えさせます。
子供の頃にやることはスピードを上げることではなく、その土台を作ることの方が重要だと思っています。

・球筋
球の質のことを言っています。投げたボールの角度、回転軸、回転数などの違いにより球筋が変わります。
定量化されたデータを基に判断できます。

・球威
打者が感じる球の力を言っています。
スピードガン以上に速く感じる投手や、球が重いといったようにバッターに感じさせるような球の力です。
数値化されない球の力を言います。
力の方向がズレていると球威を感じさせることが難しくなります。
バッターによって感じ方が変わることもあります。
僕は、球威は、ピッチングの中でかなり重要だと思っています。

・コントロール
野球はストライクを投げなければ始まりません。
ストライクを投げられることがピッチャーの最低条件になると思います。
あるに越したことはありませんが、スピードの方が重要だと思っています。
最近のメジャーリーグのフォアボールが少なく、コントロールが良いと言われている投手を見ると、細かいコントロールを持っているというよりも、甘いコースに強い球をどんどん投げこんでいるように見えます。
逆に、スピードや球威がなければコースを突く必要があるのでボール球が増えてしまいます。
このようなことから最低限のコントロールがあれば、あとは、スピードや球威の方が武器になると思います。

・変化球
ストレートを基準にボールの軌道を変化させたボールのことです。
大切なことはバッターに変化球であることを早く気づかれないことです。
極端な言い方をすれば、最後までバッターに変化したことに気づかれなければ、数センチ変化するだけで打ち取ることができます。
近年では「ピッチトンネル」という、違う球種をどれだけ同じ出だしで投げることができているかを数値化したデータもあります。
出だしを、違う球種でも同じにすることで、打者が球種の違いを認識しづらくなるということです。
または、バッターの予測を裏切ることです。
このくらい曲がるだろうというバッターの予測以上に曲がれば空振りがとれます。
逆に、このくらい曲がるだろうと思っているバッターの予測以上に曲がらなくても空振りします。
抜けた変化球やフォークボールが落ちなくて空振りするケースがそれにあたります。
なかなか狙って投げることは難しいですが、できたら有効なボールになります。

・セットポジション
セットポジションの中にクイックモーションも含まれます。
ランナーがいてもいなくても自分のバランスで投げられることが大切です。
ランナーが出ると自分のリズムで投げることが難しくなりますが、それでもリズムを崩されないのは大切な能力のひとつ。

・スタミナ
多くの球数を投げたり長いイニングを投げたりしてもパフォーマンスが落ちない能力です。
心肺機能が重要視されることが多いですが、必要なことは、身体操作の部分です。
非効率な動きは身体の一部分に負担が集中したり、代償運動により余計なエネルギーを使うことになってしまうからです。
投手のスタミナとは、技術であるとも言えます。

・リカバリー
イニング間で筋肉を回復させる力や試合での疲労を回復させる力です。
毛細血管の数を増やすことでリカバリー能力が向上します。
登板後のリカバリーとして重要なことは、栄養と睡眠です。
行動によって回復させるだけでなく、回復力もスキルということを忘れずに向上させることが大切です。

 

以上が投球に必要な能力です。
自分がどの能力を身につけたいのか。
今やっている練習で、どこを伸ばそうとしているのか。

何をするかではなく、何ができるようになるか、という考えを持って練習をすれば、成長につながると思います。