指導に暴力は必要なこともあるのか?

今月初めに、「スポーツパーソンシップからハラスメントについて考える」というセミナーを行いました。
その中で、テーマにしたことと同じことが、話題になっています。
体操でのパワハラの問題です。
セミナーの内容を取り上げつつ、考えてみたいと思います。

 

セミナーで行った内容が以下です。

あなたはスポーツチームの監督をしています。
ある熱心な保護者から
「子供を厳しく指導してください」
「強くなるために、殴って指導してもらっても構わないです」
「子供もそれを望んでますから」
「どうかよろしくお願いします」
とお願いされました。
あなたならどうしますか?

 

ということを議論しました。

 

指導や教育は、人それぞれ違うので正解はありませんが、このような保護者をどう説得するかということはとても重要になります。
異なる価値観の人に「体罰はいけませんから」では、なかなか納得してもらえません。

なぜ暴力や体罰がいけないのかを説明しなければいけません。
厚生労働省が出している、「愛の鞭ゼロ作戦」はとても参考になります。
http://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/05/ainomuchizero.pdf

脳の観点から、悪影響であることが証明されています。
前頭前野(前頭連合野)の機能は、思考(考える)、学習(記憶する)、感情のコントロール、創造性(イメージをつくる)、意欲(やる気)などです。
集中力にもかかわります。
前頭前野の委縮は、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の分泌にも、大きく関係するので、パフォーマンスを発揮するのにも、物事を記憶するのにも大切な、ゾーンやフローといわれる状態を作ることも難しくなります。

日本で育ったなら、怒鳴られて育つのが当たり前で、自分は体罰で強くなったという人も多くいるように感じます。
体罰や暴力、暴言、きつく怒るというのは、短期では、とても効果的な手段です。
特に子供は、恐怖を与えれば、言うことを聞きます。
これは、その物事の本質を理解して、言うことを聞いているわけではなく、恐怖から逃れるための防衛本能で言うことを聞いているだけです。
長期的な視点で見れば、脳が委縮してしまうのでマイナスということが証明されています。

日本の野球が中学生くらいまでは、世界一強いのに、メジャーリーガーが数人しかいないのも、もしかしたら、このあたりが関係しているのかもしれません。
日本の少年野球を観たら、ほとんどのチームがミスをすれば、怒鳴られたり、罵声を浴びせられています。
逆に、アメリカやドミニカなどの中南米などの指導は、ミスをしても怒らずに、チャレンジしたことをほめる指導が中心と聞きます。
短期では、成長が遅いかもしれませんが、長期的にみたら脳が育つので、大人になってから日本人よりもはるかに多い選手がメジャーリーガーになり、活躍できているのかもしれません。

脳への悪影響は、体罰や暴力を受けた人だけでなく、それを見た人にもあると言われています。
日本のスポーツでよくある、見せしめで殴るや怒るというのも、脳科学的な観点からは、マイナスということになります。
たとえ本人が体罰を受けなくても、それを見るだけで脳に悪影響があるので、仮に、怒鳴ることが必要だと判断しても、他の人には見せてはいけないということになります。

 

様々なことがどんどん証明されていき、今まで当たり前にしてきた指導方法が、実は、もっといいやり方が存在した。ということが出てきています。
アンテナをはって、自分の経験と上手く融合させ、よりいいものを作っていくことが重要です。
自分はこれでよくなったを、もしかしたら、こうしてたらもっとよくなったのでは?と考えることが大切だと思います。

また、人それぞれ価値観も違えば、性格も違うので、例外もあるかもしれません。
本当に、殴られて怒鳴られて強くなった人もいるかもしれません。
でもそれは例外ということになります。

同じ人間はいないので、指導の正解は、わかりませんが、脳科学的な視点からは、選手が怖がるコーチは必要ないと言えます。

選手のために、愛の鞭だと思ってしていることが、選手を苦しめる可能性があります。

本当に選手のためになってるのかを勉強し、考え続けることが大切です。

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