スポーツセンシング、記憶

僕は、以前から「センスを鍛えることをしなくてはならない」「優れたスポーツセンシングを身につけなければ、上のレベルにいけない」と言ってきました。
そのくらい、スポーツセンシングの差は、大きな差だと思っています。
同じ練習を同じ量しても、スポーツセンシングの能力の差で、結果に大きな差がつきます。
スポーツセンシングを持たない選手が、どんなに練習しても、優れたスポーツセンシングを持つ選手に勝てない、というのが僕の経験から感じることで、僕の考えでもあります。
現実に、アマチュア選手と比べて、センスがないプロ野球選手を見たことがありません。

今回は「センスのある人の記憶」について考えてみました。

 

「センスの差を練習量で埋めることは現実的ではない」という理由を「記憶」という観点から見てみます。

例えば、ある選手(A投手)が、ピッチング練習を50球したとします。
それを、後から振り返った時、A投手は、1球目から50球目まで、何の球種をどこのコースに投げたのか、すべて覚えていました。
同じように、別の選手(B投手)がピッチング練習を50球したとします。
それを、B投手が後からそれを振り返った時に、最後の1球だけ覚えていました。
そうしたら、このA選手とB選手の、この練習で覚えられた差は、50倍あると言えます。
単純計算で、B投手がA投手と同じ効果を出すには、2500球投げなくてはなりません。

これは練習だけでなく試合でも同じです。
優れたスポーツセンシングを持った選手は、試合で投げたボールすべてを記憶しています。
「あのバッターの時は、こういう配球をして、こう打ち取った」というのをすべて覚えています。

プロ野球の先発ピッチャーは、試合前のブルペンでの投球練習も記憶しています。
このボールの後は、この球種を、このコースに投げた、というのを覚えています。

これはまったく大袈裟な例ではなく、よくある例です。
僕も現役時代、その日を振り返った時に、投げたボールすべてを、思い出すことができました。
しかし、ピッチング練習の最後の1球しか思い出せないという選手も多くいます。

これは、覚えようと思って覚えているわけではなく、僕がスポーツセンシングといっている、自動化された脳が、その時の感覚も含め、自然と記憶していっています。
表面的な、球種とコースを覚えているだけでなく、その時の感覚も合わせて記憶しています。
これを毎日繰り返していたら、どんどん差がついていくことは、容易に想像できると思います。

ピッチャーの例を出しましたが、バッターも同じです。
1打席1打席すべてのボールを、その時の感覚も合わせて記憶しています。
それなので、打席に立てば立つほど感覚が磨かれていきます。

 

これが僕が、スポーツセンシングを身につけなければ、上のレベルにたどり着かないと言っている理由のひとつです。

生活している中で、「覚えよう、覚えよう」と思っているのになかなか覚えられないのに、覚えようと思っていないのに、頭に入っていることがたくさんあります。
音楽が頭に残っていたり、食べた料理の味を覚えていたり、旅行した時の風景を覚えていたり、1度の経験で忘れられない記憶になることがあります。

この「覚えようと思っていないのに、頭に入っている」というのを、作り出せれば成長が加速します。
間違えてほしくないのは、覚えようとして覚えるのではないということです。
ピッチング練習や試合で、自分の投げたボールを覚えることが目的になってしまっては、パフォーマンスを発揮できないだけでなく、スキルも上がりません。
「覚えようと思っていないのに、頭に入っている」という状態でなければなりません。

特にスポーツでは、これを使って、動作や感覚を身体に覚えこませていきます。
これができるのが、スポーツセンシングの優れた人です。

センスのない人が練習をしても、教えられても、なかなかできるようにならないのは、脳や身体が記憶していかないからです。
センスを身につけて、記憶できる状態を作ることをしなければ、どんなにいいと言われている指導者の指導を受けても、どんなにいいと言われているトレーニングをしても、なかなか成長できません。

 

これは野球だけに言えることではなく様々なことに言えることです。
他のスポーツでも、仕事や勉強でも記憶することができなければ、なかなか成長できません。

センスのある人は、自分が必要だと思ったことは、どんどん記憶していきます。
だから、僕が、以前から言っているように、センスを身につければ、いろいろな分野で力が発揮できるようになるのではないかと思っています。

今回は、センスがある人の記憶の話をしましたが、他にもセンスがある人とない人では、たくさんの差があります。
そこの差を縮めることができなければ、センスがない人は、いつまでも「センスがないから」で片付けられてしまうのではないかと思います。

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