投球数制限。

今、新潟県での高校野球の投球数制限が話題になっています。
投球数制限には、たくさんの考え方があると思います。
実際に意見がかなり分かれているように感じます。

僕の個人的な意見としては、高校生だけでなく育成年代はすべて、今すぐにでも厳しい投球数制限を設けるべきだと思っています。
その理由を書いてみました。
長文になってしまいましたが、お付き合いいただければと思います。

 

肩や肘を痛めないようにするために、注意しなければならないことは、大きく5つあると思います。
・投球数
・フォーム
・疲労
・投球強度
・成長度合い

この5つです。

・投球数
どんなに良いフォームでも、投げ過ぎれば故障します。
フォーム、疲労、投球強度、成長度合いによって投げられる球数は変わってきますが、それを判断するのは、とても難しいことだと思います。
その中でも言えることは、どんな選手でも、ある一定の投球数を超えれば、投球数が増えれば増えるほど故障のリスクは上がるということです。

・フォーム
身体に負担の少ないフォーム。関節に過度の負荷がかかっていないフォーム。
このようなフォームを身につけることができれば格段に、故障するリスクは下げることができます。
これは見た目だけの動きではなく、どこの筋肉を使っているのかまで注意を払う必要があります。

・疲労
人それぞれ回復力も違うので、疲労を見極めるのは非常に難しいと思います。
筋肉が疲労すれば柔軟性が落ちます。それだけでなく、筋出力が低下するので、関節を守る力が弱くなります。
投球数、フォーム、投球強度、成長度合いによっても大きく違ってきます。
その日や前日の投球数だけでなく、過去を見る必要もあります。
勤続疲労や蓄積疲労という言葉が使われるように、疲労は蓄積されていくと考えるべきです。
栄養不足、休養、睡眠不足も原因のひとつになります。
疲労は筋肉だけでなく精神的な疲労もあるということも忘れてはいけません。

・投球強度
投球強度が上がれば上がるほど負担は大きくなります。
出力する技術が高い選手はより注意が必要です。
身体ができていないのに速い球が投げられる選手や常に全力投球する選手も注意が必要になります。
それぞれの選手の投球強度が、どのくらい故障につながるのかの判断は非常に難しいことです。

・成長度合い
大人と子供では骨が違います。
子供の骨は、大人の骨に比べ、柔らかいので、外力や負荷に弱いです。
骨は、そのままの形で大きくなるのではなくて、骨の端に軟骨ができ、それが骨に置き変わることで大きくなります。
軟骨部分と骨の間が開いていて、そこが徐々に閉じていくということです。
この軟骨と骨の間に見られる線を骨端線と言います。
最終的には、骨端線の両側の骨が癒合し、骨端線が見えなくなり大人の骨になります。
骨端線が消えるまでは、関節部分は軟骨でできているので、特に弱いということです。
骨端線が消えるのは身長が伸びなくなることが目安になりますが、定期的に検診を受けて、レントゲンで見ることが大切です。
骨の成長度合いだけでなく精神的成長度合いもあります。
考え方もまだ成長段階で大人ほど先を考えて行動することができないということも理解しておかなければなりません。

 

この5つを常に注意しておくことが選手の身体を守ることになります。

実際に投球数制限をしたところで、5つの内の1つしかクリアできません。
しかし、投球数以外のフォーム、疲労、投球強度、成長度合いは、指導者の目が必要です。
経験、技術的、医学的、身体的な知識などがなければ正確に判断することが難しく、医療機関の協力も必要になります。
指導者の育成には相当な時間がかかると思います。

それに対して、投球数をルール化することは今すぐできる対策です。
投球数制限をしたら終わりではありません。
スポーツやスポーツパーソンシップ(スポーツマンシップ)を理解した行動をすることや、指導者の育成を進めなければ根本は解決しませんが、それらをしている間にも、身体を壊す選手は存在するということです。
現状を考えたら、早く対策をする必要があります。
指導者の目が確かで、スポーツパーソンシップに則った判断ができれば、投球制限はいらないので、厳しい投球制限をルールにして、そこから緩和していくという方向が良いのではないかと思います。
投球制限の撤廃を目標に、投球制限がなくても選手の身体を守れるということを証明することです。
投球制限の目的は、ピッチャーの身体を守ることなので、この意識がなければ練習で投げる分には関係ないという考えになってしまいます。

 

このような意見を言うと必ず出るのが、子供の投げたいという気持ちを尊重するべきだという意見です。
子供は大人よりも危険を察知する能力が低いというのは誰もがわかっていることだと思います。
子供が怪我をしそうな危険なことをしたら、いくら子供がやりたいと言っても注意したり、やめさせるのに、なぜ、投球においては、投げすぎたら危険とわかっていながら、選手(子供)の気持ちを尊重するという発想になるのか、ということです。

もうひとつが、チームに複数の投手が必要になるので、部員数が多い学校ではそれは可能だが、部員数が少ない学校では難しい。投球制限をすれば勝てなくなる、格差が広がるという意見です。
部員数が少ないのは選手の問題ではなく、指導者や学校、もしくは仕組みの問題であり、それを一部の選手の肩に背負わせるというのはいかがなものかと思います。
昨夏の大阪桐蔭がなんの努力もせずに、3人のピッチャーをそろえたわけではありません。
勝ちたければ普段からあらゆる努力をする。部員集めもそのひとつです。
それを怠って大会の時だけ勝つためにと、ひとりの選手に背負わせ、投球制限をすれば勝てなくなると言うのは、大人の言い訳に聞こえてしまいます。
部員数の減少は、野球界、スポーツ界が早急に、取り組まなければならない別の問題です。

 

投球数制限のルール化により、監督を守ることにもなると思います。
もしルールがない中で、エースピッチャーを交代して逆転を許してしまったときに、「なぜ交代した」というバッシングから守ることができます。
ピッチャーを交代するハードルを下げることができます。

スポーツパーソンシップに則り、医学的な視点から選手の身体を守り、選手の将来を考えた上で、「全力で勝ちを目指し、強いチームを作ってください。」
という話です。
何をしてでも強いチームを作れば良い、勝てば良いという話ではありません。

僕が会社で働いていた時も、「健康・安全はすべてに優先する」といろいろな職場に書かれていました。
人が生きていく上での、基本的な考え方だと思います。
それが野球は違う。スポーツは違う。とはならないと思います。
「定年でもう仕事を辞めるから、健康・安全を無視して働いてくれ」とはなりません。
それと同じで、もう野球をやらないからという理由で、健康・安全が優先されないとはならないと思います。

投球数制限の導入で選手の肩、肘を守るだけではなく、投球数制限の導入により、世間に考えるきっかけにしてもらい、スポーツに携わる人のマインドを変えることで、選手の肩、肘だけでなく、将来や人権を守るところまで見据えることが必要だと思います。
その一歩として投球数制限を導入してほしいというのが、僕の考えです。
それと同時に、スポーツの本質、投球制限の本質の理解を広めていくことが必要です。
球数を投げさせるために、待球作戦をしたり、ファールを狙って打ったりは、野球というスポーツの理解に乏しいと思います。
試合で投げれないから練習で投げる、というのも投球数制限の本質を理解できていないと起こってしまいます。

 

今までの野球のあり方が悪いと言っているわけではありません。
今までのやり方があったからこそ、ここまで野球が発展してきたのだと思います。
野球には素晴らしい伝統があり、甲子園を見ても、これほど注目されるスポーツは日本の中には数えるほどしかありません。
今まで多くの人が作り上げ、積み上げてきた実績であり、守っていかなければならないものでもあると思います。
日本のスポーツをリードしてきた野球がこれからの時代でも日本のスポーツをリードしていくために、時代の変化に沿ったやり方に変えていく必要があると思います。
その一歩が投球数制限になるのではないかと思います。

野球が安全なスポーツであり、生涯スポーツとして楽しめる。誰でもピッチャーができるということを広める方が野球界にとって、プラスが多いのではないかと思います。

2020年の東京オリンピック期間中に高校野球の地方大会が行われることになると思います。
世界中から集まるスポーツパーソンに、日本の誇る、部活動をアピールするチャンスになります。
そこに現状のような、選手を酷使するやり方では、海外の人たちには評価されません。
これまでとは時代が変わってきたということです。
来年いきなりは変えるのは難しいので、今から変えていくべきではないのかと思います。

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