「上手い選手」「下手な選手」

「上手い選手」「下手な選手」とよく聞きますが、どんな選手が上手い選手で、どんな選手が下手な選手なのか、基準がないのではないでしょうか。

上手い選手が必ずしも強い選手とは限らず、上手くなったという基準も曖昧です。
そんな「上手い」「下手」について考えてみました。

 

僕の考える上手い選手とは、「最適な動作を無意識でできる選手」のことです。
つまり、「運動が自動化された選手」のことです。(優れたスポーツセンシングを持った選手)

選手が行う、上手くなるための練習やトレーニングは、プレーの動作が、歩くことや日常生活と同じように、競技の「無意識な動作」を獲得するために行います。

人の動きは、さまざまな筋肉を協調して動かして、初めて、そのやろうとしている動作が成り立ちます。
歩く動作を見てみると、足だけを動かして歩くわけではなく、頭の位置を移動して重心を変えたり、腕を振ってバランスを取ったり、全身のさまざまな筋肉の連動で歩きます。
人が行う動作は、身体全体の筋肉を協調させ、制御しながら、行っています。
このときに、いちいち「足をこう動かして、手はこう動かす」のようなことは考えずに、無意識な動作で歩いています。

それは、競技中の動きにも言えます。
例えば、投げる動作では、頭で考えながら動いているのではなく、脳が投げるという指令を出したら、無意識に、今までに覚えた身体の制御を、頭の中にある、引き出しから出して投げます。
(完全に無意識に、自動化されて投げることができる選手が、投げる動作の途中に、思考が入るのがイップスと言われる、運動障害です。かなり簡単に説明しましたが…)

最適な制御を行うためには、その動作を繰り返し行い、脳がその動作を「学習」する必要があります。
その学習するための手段として、トレーニングや練習が必要です。

このトレーニングや練習で行った、脳の学習によって得られるものが「無意識の動作」であり「運動の自動化」です。
僕は、これを勝手に「スポーツセンシング」と言っています。(僕が作った言葉です)

トレーニングや練習では、よりレベルの高い、運動の自動化(スポーツセンシング)を手に入れるために、脳と神経と筋肉の学習を行っています。

繰り返し動作を行うことにより、最適の動作を脳が覚えていきます。
より最適化されている動作を、身につけている選手ほど、上手い選手と言えるのではないでしょうか。

しかし、上手い、下手といったようなスポーツセンシングやスキルを数値化することがなかなかできません。
それは、今の技術では、運動中の脳の活動を、正確に測定できないので、スポーツセンシングのような、脳と筋肉の連携を数値化することができません。

そのため、筋力やパワーといったような測定でき、数値化できることに、トレーニングや練習の比重が偏りがちになっています。
野球やサッカーのような球技や、スキルが重視されるスポーツの一流選手は、優れたスポーツセンシングをベースに、戦術、思考、筋力、またそれを伴う、持久力、パワーなどを身につけて、パフォーマンスにつなげています。
どんなに優れた、筋力やパワー、持久力を身につけても、優れたスポーツセンシングがなければ、パフォーマンスにつなげることは、なかなかできません。

 

優れたスポーツセンシングを持った選手になることが、上のレベルに行くためには、とても重要だと思っています。
そして、歩き方や自転車の乗り方を忘れることがないように、1度身につけた、自動化された動作を忘れることはありません。
だからといって、練習やトレーニングが必要なくなるわけではありません。
スキルレベルと身体機能レベルの最適な組み合わせがパフォーマンスを向上させます。
疲労や体調、年齢、環境などにより、常に変化している身体機能に対応した、動作の最適化を微調整するために、練習やトレーニングはいつまでも必要不可欠であると言えます。

上手い選手になるために「どうやって、動作を身体に覚えさせるか」ということを考えなくてはなりません。