アメとムチ。

前回、「基礎・基本」が重要だという話をしましたが、それを身につけるには本人の根気とやる気がなければなかなか身につけることは難しいと思います。
人が行動を起こすにはやる気が必要です。
どうやったらやる気にすることができるのかという話をしたいと思います。

 

人が行動を起こすきっかけの根本には「やりたい」か「やりたくない」かがあります。
「やりたい」と思うきっかけは、自分が達成したいと思うような、自分が希望する何かがあるときです。
こうしたいという面に注目し、自分や他人にとって良い結果をもたらすように行動計画を立てます。
「やりたくない」と思うきっかけは、自分が避けたいストレスや不快な何かがあるときです。
自分の周りに潜んでいるリスクに敏感になり、最悪な事態を考え、そうならないように計画を立てます。

「アメとムチ」で説明するなら、「アメ」は報酬を得るために「やりたい」というきっかけでやる気を促し、「ムチ」は罰を避けるために「やりたくない」というきっかけでやる気を促すということです。

この「ムチ」は短期的にだけ考えると効果的です。
なぜなら、大抵の人は「アメ」と「ムチ」が近くにあるときには、「ムチ」の強さの方が「アメ」の強さよりも強いからです。
安全を確保するのは動物の本能だからです。
しかし、「アメ」と「ムチ」が遠くにあるときには、これが逆になり、「アメ」の強さの方が「ムチ」の強さよりも強くなります。

暴力や脅しで恐怖を与えるようなやり方が近くにある場合と、報酬として何かが与えられるというやり方が近くにある場合では、恐怖を避けようとすることの方が選ばれやすいということです。
しかし、これが遠くにある場合は、恐怖を避けようとするよりも報酬を得たいと思う方が多いということです。
だから、短期的にだけ考えると「アメとムチ」では「ムチ」の方が効果的だと言えます。

「ムチ」による「やられたくない」から行動するというのは、ストレスを避ける行動です。
ストレスは過度にかかると、多くのマイナスな結果を引き起こすことは証明されています。
ストレスがかかると短期的には活気づけられますが、長期的にわたってストレスを感じながら生きていると、病気のリスクも高くなります。
罰に対して逃避行動を取ることは、人間の自然な反応です。
これがいつもだと、結局、ストレスを受けたくないという思いから行動を考えるようになってきます。
脅しの環境を逃れないと、いつかは練習や競技を続ける意欲がなくなります。
脅しを多用する環境では、安心して時間を過ごせるようにいつの間にか、その環境を避けるようになっていきます。
過度のストレスを受けている選手が練習が休みだと喜ぶというのはこの最たる例だと思います。

「ムチ」を避けるというきっかけで行動するのは、自分を成長させるという考えや良い結果を出すという考えにはなかなかなりません。
そうすると、結果を得るための過程は重要視しなくなります。その結果、練習で手を抜いたり、相手を蹴落としたりミスや間違いを隠しがちになるということが起こり、成長が促されません。

それなので僕は、「ムチ」で指導するというやり方は「絶対にダメだ」とは言いませんが、リスクがありすぎると思っています。

 

その反対の「アメ」を上手く使うことで得られることは多くあります。
プロ野球で活躍しているような選手は、練習やトレーニングを楽しんでやっていて、失敗したり怒られることを回避する手段としてではなく、自分の理想に近づくための手段として練習を考えています。
プロ野球選手のやる気は自分がやりたいからやっているという考えで行動しているということです。

多くの能力を自分が考え、行動することで必ず取得できるものだと信じています。
ミスや間違いは練習が足りなかったという証拠になります。
考えてやれば上手くなるのだと信じて、間違いを自分の能力不足の証拠として恐れることなく、目標達成の手段として使うことができます。
新しいことを試してミスをして、そこから学びます。失敗はその時には悪いかもしれませんが、長い目で見れば成長へのきっかけになります。
さらに、自分のミスだけでなく、他の人のミスや過去のことからも同じように学ぶことをしています。

さらにトップ選手は、他人から与えられる「アメ」だけでなく、自ら「アメ」を用意して行動するのでやる気を保てます。
そのポイントは上手くなっている、なっていないが感じられることです
費やした努力の量とそれに合った成長の関係を知ることは、やる気を起こさせるコツで、達成した時の喜びを報酬として得ることです。
それを経験させ、実感させることが重要です。

 

普段「ムチ」を使わない人がごくたまに「ムチ」使えば、あまりやる気が見られない人をやる気にさせるのに効果があると思います。

成長を促すにはアメとムチをバランスよく使うことは必要です。
しかし、してはいけないことはそのバランスが「ムチ」側に傾くことです。
罰が強くなりすぎては、競技が嫌いになったり、ストレスにより身体を壊してしまいます。
褒めながらバランスよくストレスを掛けていくことが成長を加速させていくと思います。