論理と感覚。

スポーツ選手には、試合や練習、トレーニングなどを行う時に、頭で考えて行動に移す選手と、考えずに感覚や本能に任せて行動する選手がいます。
僕は、この考えて行動するのも、本能や感覚に頼って行動するというのも、どちらも重要なスキルだと思っています。
そんな頭の使い方を考えてみました。

 

頭で考えて行動するというのは、問題を整理することで、仮説を立て、記憶したもの(経験や知識)を並べ替えたり組み合わせたりして行動を決め、それを行動に移していきます。
言葉を話したり、理解して論理的に説明したりする時にも、頭で考えています。
筋道を立てて考えるので、様々なことが複雑に絡み合っていることでも、ひとつずつ整理していくことによって、問題への理解を深め、仮説を立てることで行動を決めていけます。
これは、問題解決や情報の整理など、様々な場面で役立つスキルです。

考えずに感覚や直感、本能に任せて行動するというのは、前置きや仮設などを立てることなく、無意識に行動を決めていきます。
なんとなく決めるということです。
実は、普段の生活のほとんどは特に考えずに行動を決めています。
これは、幼少期から当たり前に身につけているやり方で、素早く行動に移したり、アイデアを出すときに役立つスキルです。
子供は、今の興味だけで行動します。
なぜそれをするのかなど一切考えません。
考えないので、言葉にするのではなくイメージを創ったりもします。

 

この2つのスキルはどちらも大切なのですが、
選手によって考えるのが優位な選手。
直感や本能優位な野性的な選手。
論理と感覚をバランスよく使う選手。
などそれぞれです。
これが選手の個性であり能力、人格、プレースタイルなどにも現れます。

当然、教え方も変わってきます。
考えるのが優位な選手に「ギュッとためてパッと投げればいい」と言ったところでなかなか伝わりません。
逆に、本能でプレーするような選手にロジックを細かく説明してもなかなか理解できません。

 

スポーツ種目や同じ野球でも投手と野手では、その重要度も変わってくると思っています。
野手は投手に比べて、考えずに感覚や直感、本能に頼ってプレーすることが求められます。
投手は情報を整理したり、自分のタイミングでプレーできるのに対して、野手は投手の投げてくるボールを打ち返したり、飛んできた打球に素早く反応してアウトを取ったりと、目の前で起こる出来事に素早く反応して行動に移さなければならないからです。

だからといい、野手は考えて行動するというスキルが必要がないのかというとそうではありません。
逆に、投手は、考えずに感覚や直感、本能に頼るスキルが必要ないのかというとこれも違います。
どちらも重要なスキルですが、比重が違うということです。

 

多くの指導者は、本能でプレーするよりも考えてプレーすることの方が重要であると考えているように感じます。
自由な発想で、ひらめきを大切にするよりも、学校のテストのように答えはひとつで、教えたことを忠実にできるように型にはめるような教え方をする指導者が多いことからも、考える選手は、頭脳明晰で成功確率も高いと考えているのではないでしょうか。

しかし、僕の経験では、プロ野球選手やそれぞれの競技のトップ選手を見ると、それが、必ずしも正しいとは言えないと思います。
なぜなら、何を考えているのかわからないような、感覚でプレーしてるような選手が多くいるからです。
トップ選手は、直感的に決める決断が的確で、高い判断レベルを持っています。
さらに、プレー中は感覚を研ぎ澄まし、その一瞬に持っている力を総動員するような選手ばかりです。

 

この2つの頭の使い方を同時に発揮することはできません。
選手は、場面場面で、考えて動くか、直感や本能で動くかを選択します。
多くの選手は無意識に選択してしまっています。

この選択が的確でなければプレーに支障が出てしまう可能性があります。
例えば、内野手が打球を捕り、1塁にボールを投げる時には、考えずに直感や本能で投げることが理想です。
そこに、投げる途中に、「腕をこう動かして」や「暴投しないように丁寧に」などと考えてしまっては、暴投の確率は上がってしまいます。

 

問題点を解決するには、考えるというのは、とても重要です。
しかし、考えるというのは、今までの経験や知識の中から行動を考えていくので、今までにしてきた動きしか選択できません。
新しいものを生み出したり、新しい発見をすることには向いていません。
論理的に考えたり、データを集めて正確な分析をすることなどが、前例のない問題を解決する過程にあると思いがちですが、前例のない問題を解決するのは、直感的な判断によって生まれるひらめきです。
思考に思考を重ねて脳が一杯一杯になった後、リラックスした状態の時や環境が変わった時などに、潜在意識に埋もれている何かがつながり、直感としてひらめきます。
何かをひらめくというのは、ひらめきやすい状態というものがあり、そういう状態を意識して作り出すことが本能や直感という感覚を高めるスキルと言えます。
このスキルを磨くためには、常識や先入観を頭の中から排除し、考えることを止めなければなりません。

 

論理的に考えることも重要ですが、直感や感覚でプレーすることも重要です。
指導者は選手の個性や考え方、プレー中の頭の使い方などを認識した上で、どう接するのが良いのかを考えていく必要があるのではないかと思います。