先日、イチロー選手が現役を引退しました。
僕の講演やスポーツセンシングの話を聞いたことがある方はわかると思いますが、僕の言う「スポーツセンシング」の塊のような選手がイチロー選手です。
プロ野球を見ていると、選手のスピードやパワー、体格、技術、結果などに目が行きます。
それで、スピードやパワー、体格、技術、などを向上させようと練習しますが、そのような選手のようにはなれません。
一流選手がパフォーマンスを生み出している本質的な能力は、スポーツセンシングだからです。
その極みがイチロー選手です。
イチロー選手の引退会見などから考えてみたいと思います。
イチロー選手の根本にあるのは、野球を誰よりも愛して探究することで充実感や喜びを得ているということではないでしょうか。
この「喜び」という部分は「楽しむ」と表現するトップ選手が多くいますが、会見の中で、「楽しかったか」という質問に「楽しい」とは言いませんでした。
この感覚はトップ選手とアマチュア選手では、大きく異なっているように感じます。
トップ選手の楽しむは、達成感や喜びを表しています。
それを得るために、練習中でも試合中でも、自分のやるべきことを明確にし、感情を消して夢中になります。
夢中なので、そこに楽しさは感じません。
逆に、苦しさも感じません。
だから、ハードな練習にも取り組めるし、練習を長く続けることもできます。
はたから見たら「努力している、頑張っている」と見えますが、そういう意識は本人にはないように感じます。
僕がプロ野球の世界に入り、トップ選手を見て感じたことは、努力を努力と思った時点で勝負にならないということです。
周りから見たらすごい努力しているように見えても、本人は努力だと思っていないで、当たり前にやらなければいけないこと、やるべきことだと思ってやっています。
イチロー選手の話を聞いていると、努力とは、やる気でするものではなく習慣であると感じます。
自分がやると決めたことは、やる気のあるないにかかわらず、やるべきこととして、いつも通りできます。
「やりたいこと」と「やるべきこと」が同じ、もしくは近い認識をしていることが重要です。
「やりたいこと」より「やるべきこと」が優先して行われるのがトップ選手です。
その積み重ねが良い結果や成績につながるのだと思います。
そうなるには、イチロー選手のように自分を成長させるということに価値を持つことも重要な要素です。
比較対象が周りの選手ではなく今までの自分と比較して成長することを目指していることがわかります。
だから、数々の記録や成績を残しても、人々に称賛されても、浮かれることも慢心することもないのではないでしょうか。
所属チームが決まっていなくても、試合に出場する権利を持っていなくても、黙々とトレーニングができるのも昨日の自分よりも成長したいという想いと、そうすることが道を切り開く最善だと考えているからだと思います。
メジャーリーガーは筋肉増強剤などのドーピング疑惑がかかる選手がいますが、イチロー選手は、まったくクリーンな選手であり、初動負荷トレーニングによって、自らを鍛え上げ、感覚を研ぎ澄ましてきたことからも、常に自分自身と向き合ってきたことがわかると思います。
スポーツセンシングに優れているとは、いくつかの能力が優れているということですが、その中に、優れた感覚を使って物事をとらえる能力があります。
まさしくイチロー選手が、他の選手と比べ、特に突出して高い能力です。
人よりも優れた繊細なセンサーを身に付けてるので、僅かな違いを感じ取り、パフォーマンスに生かすだけでなく、それを身体に記憶させていくことで次にもつなげていきます。
それだけでなく、怪我を予防することにも役立ちます。
多くの選手が、怪我や故障に苦しんでいますが、イチロー選手は引退まで徹底した自己管理と優れたセンサーにより自分自身の身体を守ってきました。
その物事をとらえる能力を磨くためにやっていることのひとつが、自分の決めたルーティンを決して怠らないことです。
試合の日は朝起きるところから寝るまで、球場入りの時刻やアップ、練習、食べ物まで、同じ行動パターンを一貫して繰り返しているそうです。
それが習慣として定着しているので、身体の僅かな変化に気がつき、微調整できます。
何年も一貫して、同じ行動をしているのに対して、バッティングフォームは毎年変化しています。
探求心を持って、これが自分にとって最善だと思う方法を追求し続けているということです。
自分で様々なことを試し、チャレンジする判断力がなければ、なかなかできることではありません。
フィジカルトレーニングや技術練習は重要ですが、もっと重要なのがスポーツセンシングを磨くことです。
イチロー選手を見ていると本当にそう思います。
行動すべてがそこにつながっています。
スポーツセンシングを磨くこととは、それに必要な様々な能力を向上させることですが、イチロー選手の会見を聞いてさらに確信を深めることができました。