前回、膝のACLと肘のMCLについて書きました。→ACLとMCL(前十字靭帯と内側側副靭帯)
その続きとして今回は、どのように予防したらよいのか、どのようなメニューを選手に提供するべきなのかを考えてみました。
テクノロジーの発展により、膝のACLと肘のMCLだけでなく、様々な怪我の研究が進んできています。
怪我の発生メカニズムがわかってきています。
トレーニングも日々発展してきています。
では、なぜこんなにトレーニングが発展し様々な研究が進み、科学的にも、怪我の発生メカニズムがわかってきているのに、多くの選手が怪我をしてしまうのかを選手目線から考えてみました。
それは、選手の目的は怪我や故障をしないためではないからです。
選手は、パフォーマンスを向上させるためや、試合での勝利を目指して、一生懸命になります。
そこを無視して、故障をしないためだけに、一生懸命に努力している選手を見たことがありません。
例えば、肘が万全で、バンバン試合で投げている野球選手に、「肘の故障の予防のために、このトレーニングをするように」と言っても、このトレーニングを続けられる選手はなかなかいないと思います。
膝でも同じで、今まで膝になんの障害もなかった選手に「膝の故障の予防に、このトレーニングを続けるように」と言っても、このトレーニングを続けられる選手はなかなかいないと思います。
そんな時間があるなら、パフォーマンスが上がるようなトレーニングや練習をやる方がいいと考えてしまいます。
こんなに、膝や肘を傷める選手が多くても、自分は大丈夫だと思っている選手が大半だと思います。
僕もそんな選手のひとりでした。
肘を傷める選手を見ても、自分は大丈夫だと思っていました。
選手は、自分のパフォーマンスを向上させることができると思ったら、傷めるリスクを考えずに、何百球も投げ込むということをします。
これをやれば試合に勝てるようになると思えば、何時間も走り込むこともします。
多くの選手は、「上手くなる」「強くなる」「試合に勝てる」などと思えば、自分の身体にマイナスだということは頭の中から消えてしまいます。
30年前は、当たり前で、今は、笑い話に使われ、みんながあり得ないと思う、練習中や試合中に「水を飲むな」というのも、その方が上手くなれる、強くなれる、試合に勝てる、と思われていたからそうしていました。
選手も指導者も、身体を守るという意識よりも、「上手くなりたい」「強くなりたい」「試合に勝ちたい」といった意識の方がはるかに強いということです。
30年後に笑い話になる、現代版の「水を飲むな」が、今やっていることの中に、存在しているということを頭の中に入れておかなければなりません。
では、どのようにアプローチするのが良いのかというと、選手が「上手くなる」や「強くなる」や「試合に勝てる」と思うような練習やトレーニングで、ACLやMCL損傷の予防にもなるメニューを提供するということです。
僕は、ACLやMCLを傷めないようにすることと、パフォーマンスを向上させることは同じだと思っています。
前回の投稿で書いたこと(ACLとMCL)は、パフォーマンス向上につながります。
ACLを守るために重要な、ハムストリングスと股関節の使い方を向上させることは、ストップ動作や切り返し、ジャンプの着地などを安定させるので、そのような動作を行うスポーツでは、その競技自体のパフォーマンスの向上につながります。
野球では、投球の際に肘のMCLを守るために重要な、投球フォームや屈筋・回内筋群の収縮を向上させることは、球速、コントロール、スタミナ、など投げる動作の様々なパフォーマンスを向上させることにつながります。
ACLやMCLを守るためだけのメニューではなく、パフォーマンスを向上させるメニューでなければ傷めていない選手や傷めたことのない選手は、なかなかやりません。
現状、多くの指導者が選手の身体を守ることよりも、試合に勝てるようにすることを優先するので、その環境で育った選手が自分の身体を犠牲にしてでも勝ちに行くのは当然のことだと思います。
だからこそ、僕が心掛けるのは、パフォーマンスが上がり、勝ちに近づけるようになることと、怪我や故障の予防が両立できるメニューを提供するということです。
それと同時に、選手の知識を増やしてあげることも重要なことです。
フォームや動きの改善、トレーニングの研究、疲労に応じて必要になる休息時間の把握、動きの違いによる靭帯への負担の違いの理解、等、選手自身で取り組めるようになることで、パフォーマンスの向上にも、怪我や故障の予防にもなります。
手術の技術が上がり、靭帯を断裂しても、復帰できるようにはなってきました。
しかし、1番大事なことは、受傷しないことです。
そのためには予防をすることです。
予防をすることによって、膝のACLや肘のMCLを損傷したり断裂する選手がいなくなることを願っています。