防衛本能を働かせない。

前回の投稿で「子供の成長段階」があるという話をしました。

子供が、スポーツにどのように向き合っているのかを見て、接し方を変えていくという話をしましたが、それだけでなく、子供が置かれている状況にも目を配る必要があります。
どのくらいのストレスを与えることが適切なのかを考える必要があります。
筋肉をイメージしたらわかりやすいと思いますが、適度な負荷をかけることで筋肉は成長していきます。
人の成長も同じで、適度なストレスは成長には欠かせません。
しかし、過度なストレスは成長を阻害します。

それをどのように判断するのが良いのかという僕の考えです。

 

人間には防衛本能が備わっています。
自分を守るということを本能的(無意識)に行ってしまいます。
この機能を作動させないことが成長には重要になります。
人を成長させるには、自分を守るという行動ではなく、上手くなりたいと思い、自分を成長させる行動をする必要があります。

例えば、お腹が空いて空腹では、練習どころではありません。
水分を摂らずに、喉がカラカラになれば、ハードな練習はできません。
睡眠不足で眠くなれば、集中できません。
上手くなりたいと思う前に身体を守らなくてはという防衛本能が働いてしまいます。
これは極端な例ですが、食事、睡眠が重要であり、疲れていては成長につながらないということがわかると思います。

怪我をしている状態でのプレーも防衛本能が働いてしまいます。
怪我を悪化させないと思えば、上手くなるという考えではなく、身体を守るという考えになってしまいます。
僕自身が、そうでした。
痛みがある中で無理してプレーしていた時は、成長しようという考えではなく、どうしたら痛くないかという考えになってしまっていました。
自分を成長させるにはどうするかという考えにはなりませんでした。

怒鳴られたり、殴られたりすると思えば、怒鳴られないようにや殴られないようにという思考が働いてしまいます。
これも防衛本能が働いてしまい、「どうしたら怒られないか」といったような、自分を守るための行動を取ってしまいます。
これでは「上手くなるためにどうしよう」「成長するためにどうしよう」という思考にはなりません。
「これをしなければ練習させない」「これをしろ」というような強制による支配も同じです。
成長するためではなく自分の立場を守るためにそれをしなければという発想では、なかなか上手くなりません。
ミスすると怒られたり、「ああしろ、こうしろ」と細かく言われ続けている選手は、チャレンジすることをしません。
このような選手は、話をしている時に視線が定まらなかったり、練習中や試合中にベンチやスタンドに視線を送るのですぐにわかります。
自己防衛のために言い訳を考えたり、人のせいにしたりします。
自分が成長するためにという思考は追いやられてしまっています。

特に問題なのが、監督やコーチにそうされているよりも、親にそうされている選手です。
子供は親に認めてもらいたいというのは本能です。
上手くなるためには上手くなりたいと思い、チャレンジすることが重要です。
「こうやったらどうなるのかな」「こんなやり方思いついた」と好奇心と遊び心を持ってやってみることが成長につながります。
しかし、そのような新しい挑戦には、ミスが付き物です。
それを怒られてしまったり、ふざけないでやれと言われてしまっては、成長につながりません。
見ていても楽しそうではないし、誰のためにスポーツをしているのかがわからなくなるような選手を見るのは辛くなります。

このような選手には、その競技を好きで楽しいと思ってもらうことを考えます。
挑戦レベルを下げ、遊びに近い形で楽しませることが必要です。
そして、どんなにミスをしようと、チームの勝利に貢献できなかろうと、人格が否定されることはないということを理解させていかなければなりません。
「今は上手くいっていないかもしれないが、選手を成長させるためにチームがあり、そのためにコーチがいる」ということを伝え続けることが重要です。

防衛本能が働かない状態ができなければ、成長しようという思考にはなかなかなれません。
「怒られるからやろう」から「期待されているからやろう」そして「成長するためにやろう」に持っていくことを考えます。

 

例外として、防衛本能が働かずに、自分を守るためには成長することや上手くなることだと考えられる人もいます。
思考技術が優れているので、本能(無意識)に思考(意識)を加えられるので、ストレスに対する耐性が非常に高いです。
このような人はかなりのストレスを与えてもそれを力に変えて成長します。
海外の貧困を脱出するためなどのハングリー精神を持った選手や強烈なストレスをかけた指導で成長した選手などは、僕は例外だと思っていますが、一定数いることも事実です。
このような選手も含めて、選手の状況を見極める努力をすることも指導者の役割のひとつです。

 

前回書きましたが、子供たちの成長段階には個人差があります。
適切な負荷も人それぞれです。
与えるストレスを適切にすることが成長には欠かせません。
それを見極め、その選手に適した接し方ができるようコミュニケーションを取りながら成長を促していけたらと思っています。