ウエイトトレーニングとパフォーマンス。

前回、ウエイトトレーニングとスポーツのパフォーマンス向上は目的がまったく逆で、ウエイトトレーニングは筋肉を発達させる効果はとても高いが、動作の効率を落としてしまう危険性があるという話をしました。(ウエイトトレーニングの効果。

今回は、さらになぜウエイトトレーニングがパフォーマンスを落としてしまうことがあるのかを考えていこうと思います。

 

ウエイトトレーニングは筋肉に十分に刺激を与えることが重要なので、「筋肉に効かせる」といった筋肥大の刺激を十分に与えられた状態を作ることを目指します。
スポーツ動作では、その反対になるべく「筋肉に効かせたくない」ということです。
ウエイトトレーニングに慣れてくるとこの「効かせる」ことが上手くなってきます。
それをスポーツの局面などウエイトトレーニング以外の場面で発揮してしまうとパフォーマンスの向上を阻害してしまいます。
筋肉に効かせてしまっては、早く疲労してしまうだけでなく、動きも硬くなってしまいます。

 

トップ選手の動きを見ていると動きがスムーズでしなやかに動ける選手ばかりです。
そう見える理由は、伸張反射と言われる反動動作を上手く使っていることと、身体全体を上手く使い、身体の中心から末端に連動して動かしているからです。
この伸張反射と連動性はパフォーマンスを発揮するには非常に重要で、このテクニックがスポーツの上手い下手に直結しているとも言えると思います。

伸張反射とは、骨と骨の間に付いている筋肉が急激に引き伸ばされると、その筋肉が元に戻ろうと収縮する現象を言います。
腱を伸長させた時にも、それにつれて筋肉が伸びるので伸長反射が起こります。
例えば、高くジャンプしようとした時に、一度沈み込み、反動を使って高く飛ぶ動きや、ボールを投げる時に胸を張ることで筋肉が伸ばされ、収縮することで大きな力を生み出すテクニックです。
この伸張反射は動的なスポーツのほとんどの局面で使われています。

伸張反射を使うことで、得られることは、多くあります。
筋肉に力を入れる時間が少なく、反動での切り返しの瞬間に大きな力が出るので、筋力の発揮時間が短くなり、筋肉の疲労もしにくくなります。
自分の力で終始動かすのではなく、反射で動くので、毎回同じ動きになり、再現性が高くなります。
さらには、発揮できる力は強く、速くなります。
怪我のしにくい動きにもなります。

この伸張反射を上手く使い、全身を連動性をもって力を伝えることで、バネのあるしなやかな動きになります。
素早く身体の中心部の大きな筋肉から先端の筋肉に順番に力を伝えていきます。
投球では、下半身から上半身、そして腕から指先と力を伝えていきます。
野球など身体運動のほぼすべての局面でこの身体操作を上手くすることが、パフォーマンスを発揮するには欠かすことができません。

 

一方、ウエイトトレーニングは、筋肉に肥大を誘発するような刺激をより多く与えたいので、伸張反射を使うことで力の発揮時間が短くなることや効率的に動いては刺激の量が少なくなってしまうので良くありません。
基本的に、ゆっくり動くウエイトトレーニングでは伸張反射を使った反動動作を行いません。
連動性を持たせるということもしません。
伸張反射を使った反動動作は、効率よく大きな力・速度を発揮ができるのでスポーツ動作には必要ですが、筋肉に大きな負荷をかけたいウエイトトレーニングには必要ありません。
反動を使わずにゆっくりと力を持続的に出し続け、筋肉を連動して使うということは一切せず、各関節を同時に動かします。
例えば、スクワットで重りを持ち上げる時には、股関節にも膝関節にも同時に力がかかります。

 

競技でパフォーマンスを発揮するには、反動を使い伸張反射を使うことで、全身を効率良く使って、一部の筋肉に負担が集中することを避けるのが、優れた身体操作であり、優れた筋肉の使い方と言えます。
ウエイトトレーニングは、反動や伸張反射を使わずに、身体を連動させることなく同時に持続的に力を発揮することが優れたウエイトトレーニングスキルと言えます。
このように、ウエイトトレーニングの熟練者になればなるほど、スポーツ動作を下手にさせることがどうしても起こってしまいます。

単純にウエイトトレーニングで身体を大きくしたらパフォーマンスが上がると考えるのは注意が必要です。
確かに多くのトップアスリートが筋肉隆々でがっちりした身体をしていますが、それは優れた身体操作スキルを身につけているので、その筋肉を使いこなすことができるからです。

自分のパフォーマンスを最大化させるためには何が必要かを考えることが大切だと思います。