水分補給

水分補給は、競技者だけでなく、生きていく上でとても大切です。
少し意識するだけで身体に変化を感じることができると思います。
ここでは、僕の水分補給に対する考え方と実際にプレーしていた時に、行っていたやり方を紹介したいと思います。

 

必要な水分量には、個人差があります。
身体の大きさや代謝、その日の体調、気温や湿度などの環境条件、競技種目やポジションなどの活動レベル等によって決まるので個人差だけでなく、同じ人でも日によって大きく変わります。

あくまで僕のやり方なので自分にあったやり方を見つけるヒントにしていただけたらと思います。


現役時代のある1週間の摂取した飲み物の量です。
日によってかなりの違いがあることがわかると思います。
ちなみに、お酒は含まれていません。

僕は現役時代、食べた食べ物と摂取した水分量をすべて記録していました。
食べ物を記録することにより、大体のその日の摂取カロリーを把握していました。
心拍計をつけていたので、その日の消費カロリーを参考に、大まかな活動レベルを把握することができていました。

摂取カロリーと消費カロリーを見て、体重計に乗り、自分にとって必要な水分量を把握していきました。

もし、摂取カロリーと消費カロリーが同じくらいなのに、体重が減っていたら水分が不足しているということになります。
これを毎日続けていたので、この季節の試合だからこのくらい。このくらいのレベルの練習だからこのくらい。といったように、どのくらいの水分を摂った方がいいのか感覚でわかるようになりました。


上のグラフはある1週間の消費カロリーと摂取カロリーです。
色のついていないグラフが消費カロリー、色の付いたグラフが摂取カロリーです。
毎日確実に同じくらいにするというよりは、柔軟に数日単位で同じくらいになるように心掛けていました。
体重を増やしたいときは摂取カロリーを消費カロリーよりも増やすようにして、逆に、体重を減らしたいときは摂取カロリーを少なくしていました。
実際、体重のコントロールには、カロリーだけでなく食べるメニューやタイミング、食べ方、水分、脳の使い方、トレーニングメニュー等、様々な要素が関係しますが、カロリーを気にするやり方だけでもかなりの効果がありました。

 

人間の体にとって、水分はとても重要です。
人間の体の多くは水分であり、人は血液により、身体のすみずみに酸素や栄養を運んでいます。
それだけでなく老廃物を体外へ出す役割もしています。

競技中の選手は大量の汗をかくため、体内から大量の水分が失われます。そんな状況で十分な水分補給を行わなければ筋肉にも悪影響を及ぼし、怪我のリスクが上がります。
集中力の低下が起こったり、脱水症状や筋肉がつったり(筋痙攣)、熱中症にも繋がる可能性があります。
水分補給をすることにより、体の水分を正常な状態にすることで、健康面や安全面で問題が生じたり、パフォーマンスが低下する可能性を抑えることができます。

発汗で失われた体内の水分補給だけでなく、激しい運動をすると、人間の身体は大量の熱を生み出します。水分補給は体温を安全なレベルに保つ体温調整の役割もあります。

どのように水分補給をしていたかというと、
とにかく、こまめに水分補給をすることを心掛けていました。 

朝は毎日、水、牛乳、フルーツジュースで500ml~600mlを飲みます。
練習や試合中は、水、経口補水液、オレンジジュース、スポーツドリンクを飲みます。
ミネラルを摂ることはもちろんですが、脳のエネルギーになる糖を摂ることも大事にしていました。
量はその日の気候や活動レベルによって変わりますが、先発で長いイニングを投げる時は、2.5L以上飲むこともあります。
競技後やトレーニング直後は、水、オレンジジュース、牛乳をプロテインと一緒に飲みます。
これは、たんぱく質とカルシウム、ビタミンを摂りたいからです。
それ以降は、フルーツジュースと牛乳とアーモンドミルクを多少飲む以外はほとんど水しか飲みません。
筋肉痛がある時のような、筋肉に疲労がある時は、寝る前にプロテインを飲んでいました。

飲み物はこのように飲んでいましたが、なるべく、水分は食べ物から摂るように心掛けていました。
特に、野菜やフルーツは、水分を多く含んでいます。食事中は飲み物は一切飲まずにトマトやフルーツを食べるようにしていました。(フルーツによっては、食事の1番初めに食べます。)
野菜やフルーツだけでなく、食事にも、多くの水分が含まれているので、バランスのとれた食生活をすることが、栄養の面でも、水分補給の面でも、大切だと思います。

以上が現役の時の水分の摂り方です。

 

これが正解というわけではなく、僕自身が、自分の身体を実験台にして、こうしたらどうなるかということを繰り返して見つけたやり方です。
僕の身体にはあったやり方ですが、他の人に適しているかはわかりません。
このようにすることによって、どのくらいパフォーマンスが上がったのかはわかりませんが、自分の身体を知ることはできました。
スポーツでは、自分を知るということは、大きな武器になります。そういう面では、価値のある取り組みだったのかなと思います。

 

なにか少しでも、上を目指す選手の手助けになったらと思います。

ピッチャーの心拍数

僕は現役時代、練習時も試合時も心拍計を着けたままプレーをし、心拍数のデータを集めていました。
ただ、腕に着けるタイプなので、研究機関にあるほど精度の高い機械ではないため、急な心拍数の上昇時には、どうしてもかなり低く出てしまいます。
それを踏まえて見ていただけたらと思います。

それでも野球のプレー中の心拍数のデータが、なかなかないので参考にはなると思います。
心拍数なので個人差はありますが、このデータを参考にして、練習やトレーニング等に役立てていただければと思います。

また、先発ピッチャーの立ち上がりの対策を僕なりに考えてみたので参考までに見ていただけたらと思います。

それぞれの状態においての心拍数は次の通りです。

・普段のピッチング練習。

終始120前後くらい。

リリーフで1イニング投げたときの心拍数を見てみると
リリーフ、1イニング

矢印が試合のマウンドです。

リリーフ、1イニング、最終回

山が2つあるのは、ブルペンでの投球練習と試合です。
実際は、急激な心拍数の上昇時は低く出てしまうので、ブルペン145以上。試合175以上くらいになっていると思います。

緊迫した試合だと、マウンドに上がりプレーボールをしたときには、プレッシャーや緊張によるストレスだけで、心拍数が普段のピッチング練習より50~60くらい高くなることがわかります。

ここで注目してほしいのは、赤マルの部分です。
試合で投げる前のブルペンの段階で1回心拍数が上がっていることです。
リリーフピッチャーは試合が進んでいる緊張感の中で、短い時間で準備をするのでブルペンで心拍数が上がります。
僕はここが重要であると思っています。

先発の場合は

赤マルの部分のように、初回に急激な心拍数の上昇が起こってしまいます。

大事な試合やプロ野球の試合で先発投手が初回に本来のピッチングができないことが多いのには、心拍数が関係している可能性はあるのではないかと考えました。
初回に急な心拍数の上昇が起こったときに自分の身体を扱いきれずに、自分のパフォーマンスを発揮することが難しくなることは想像できます。
高い集中状態を作り出すのも、脳を上手く使いこなすのも、身体をコントロールするのも難しいように思えます。

2回からは、本来のピッチングに戻ることが多いのは、初回に心拍数が一度上昇していることを経験しているので、自分の身体を扱いやすくなりピッチングが安定しやすくなるということも考えられます。
また、リリーフピッチャーに立ち上がりが悪いと言われる選手がいないことと、立ち上がりが悪いと言われるピッチャーもリリーフで投げると初めから本来の投球ができることからも心拍数が関係している可能性はあると思っています。

そこで先発ピッチャーが初回の急な心拍数の上昇に対応するために、リリーフピッチャーの登板と同じように試合前に心拍数を上昇させてから試合に入ることが大切だと考え、実践してみました。
やり方は後ほど説明します。

そのため、以下の試合は、赤マルの部分(初回とその前)がリリーフで投げた時と、似た形になっています。

・社会人野球、オープン戦、先発。7イニング。

青い矢印がマウンドに上がっている時です。
社会人野球のオープン戦では、マウンドに上がっただけでは心拍数はあまり上がりません。

・社会人野球、地方大会、先発。7イニング。

社会人野球都市対抗予選、先発、7イニング。

都市対抗予選は、社会人野球で、1番緊張感があると言われています。
余談になりますが、目安の消費カロリーも1520カロリー。
この日は、4500カロリー以上を摂取し、4リットル以上の水分を取って、試合前の体重に戻りました。
改めて、先発ピッチャーの過酷さを感じました。
もっとプレッシャーがかかるプロ野球の先発ピッチャーは本当にすごいと思いました。

 

それでは、僕が取り入れた登板前のアプローチを説明します。
野球では、心拍数を重要視するということはあまりしませんが、オリンピックのメダリストは競技前に心拍数を上げて競技に入っていきます。
フィギュアスケートの羽生結弦選手
レスリングの選手たち
陸上の選手たちは、それを実践しています。

僕が取り入れたやり方はレスリングの選手を参考にしました。
先発の時は、ブルペンでピッチングを終えた後に行います。
そのやり方は
前後ジャンプ→腹筋(クランチ)→左右ジャンプ→腹筋(膝さすり)→バービージャンプ
これを20秒ずつ続けて行います。
1分40秒で心拍数が180前後まで上がります。
(上のデータでも先発時の初回の前に行い、急な心拍数の上昇時にグラフには正確な数値が出ず、130ちょっとくらいしか上がっていないことになってますが、実際は180前後まで上がっています。)
その後、5~10分後にマウンドに上がれるように逆算して行います。

全部のメニューを股関節を動かす意識で行います。ジャンプは膝を曲げるのではなく股関節から曲げて足を引き上げるジャンプです。
股関節を動かすことは全身の血流をよくする狙いがあります。
レスリングの選手や陸上選手が試合前に抱え込みジャンプをしているのをよく見ますがそのような狙いがあるのではないでしょうか。

 

立ち上がりが良くない選手は、投球フォーム等の技術的な要素もあると思いますが、心拍数にもアプローチしてみる価値はあると思います。
心拍数には、個人差があるので、自分に合ったやり方を見つけてほしいと思います。

年間の投球数

僕が現役の時、1年間怪我なく投げた2008年のシーズンの年間の投球数を書いてみました。
ここでいう投球数とは、マウンドからキャッチャーが座った状態で投げた投球数です。

2008年のデータになるので、一昔前のデータになりますがプロ野球のピッチャーが1年間でどのくらいの投球数なのか、なかなかわからないと思うので参考にしていただけたらと思い投稿します。

これは僕の投球数であり、これがいいとか、悪いとかではありません。
あくまで2008年に投げた投球数をそのまま書いただけです。
こんなだからダメだったという議論だけではなく、これを踏まえて、これからの選手の役に立ててほしいと思っています。

2008年の総投球数

 

投球数  ゲーム  ブルペン トータル
キャンプ 107球 483球 590球
OP戦  161球 245球 406球
シーズン 913球 1284球 2197球
年間合計 1181球 2012球 3193球

 

これをもう少し詳しく説明します。

・キャンプ
プロ野球は2月1日からキャンプがスタートします。
2008年のキャンプは20日間でした。
1月は1度も投球練習をしていないので2008年の投球は春季キャンプからとなります。
ブルペンでの投球練習は、11回行いました。

その11回の投球練習の投球数は

55球、55球、63球、18球、62球、50球、13球、44球、18球、50球、55球

ピッチング練習は15分と時間で決められていたために多く投げようと思っても60球前後になります。

この11回に紅白戦などのゲームに投げるための準備も含まれています。
18球、13球、18球はそれに当たります。
ここでのゲームとは、バッティングピッチャーと紅白戦(シートバッティング)のことを言っています。
合計3度投げ、ゲームでのトータルの球数が107球でした。

・オープン戦
キャンプが終わり練習試合、オープン戦の期間(約1か月)に入ります。
僕はリリーフピッチャーなので試合で長いイニングを投げることはありませんでした。1イニング以下の登板がほとんどです。
この期間に10試合登板しました。
この期間はあらかじめ登板日が決まっているので登板日以外でピッチング練習をすることはほとんどありません。(1回だけ)
それなのでブルペンとは、1回以外は登板前のピッチングのことです。

・シーズン
シーズンが開幕すると登板は試合展開次第になります。
僕の場合はクローザーを任されていたので基本的にはリードしている試合の最終回に投げます。
シーズン58試合の登板をしました。これはパリーグの6番目の登板数でした。
もちろんブルペンで投げるだけで試合で投げないことも何度もありました。

登板するかは試合展開次第なので月によってかなり投球数に差がありますが、シーズンは約7か月と考えてシーズン中の投球数を単純に7で割ってみました。
1か月平均にすると
約8.3試合
ゲーム約130球
ブルペン約183球
トータル約314球

シーズンが終わってからはブルペンに入って投球練習をすることはなかったので3193球が2008年に投げたトータルの投球数です。

これは日本の中でも、チームの中でもかなり少ない投球数だったと思います。
それは、2008年はボビー・バレンタイン監督だったので投球数は厳しく管理されていたことと、ピッチャーの中ではクローザーが1番、投球数が少ないと思うからです。
投げる場面が限定されているのと、イニングの先頭から投げるのでブルペンでの球数を抑えられます。

2007年はクローザーではなくリリーフとして様々な場面で登板していたので、月間で600球近く投げることもありました。

先発ピッチャーはそれ以上の投球数になっていると思います。

ブルペンで投げることは少ないですがその分キャッチボールを多く行っていました。
キャッチボールの球数はカウントしていないので正確にはわかりませんが、年間通してかなりの時間を費やしました。
これは僕だけでなくプロ野球のピッチャーはアマチュア野球のピッチャーよりもキャッチボールを大切にしているように感じます。
マウンドで投げない分をキャッチボールで練習するという感覚です。

このやり方はアメリカ式のやり方であり世界的に主流になっているやり方です。少なくとも欧米、中南米、南米は投球数を厳しく管理しています。

日本のやり方ではこれよりもかなり多くの投球数になります。

なかなか表に出てこないデータだと思いますが、選手のために参考にできることがあればと思います。
先ずは、自分がどのくらいの球数を投げているのか。指導者であれば、自分のチームのピッチャーがどのくらいの球数を投げているのかを把握し、比較していただければと思います。

「肘をしならせて投げる」とは?

「しなり」という言葉はバットをしならせて打つや腕をしならせて投げるなど野球でよく聞く言葉です。
実際に僕も、小さいころから肘をしならせて投げるように言われて育ってきました。
しならせて投げるイメージで成績を残しているプロ野球選手もたくさんいます。

しかし、いろいろな選手を見る中で、肘をしならせようとして投げることによって、うまく身体を使えていない選手も数多くいるように感じます。

本当に「肘をしならせて投げる」という投げ方は理想の投げ方なのでしょうか?

まず、理解しなければならないことは、野球でよく使う「しなる」というのは、しなっているわけではなく自分の感覚や見た目の感覚を言葉にしているだけです。
実際は「しなっているように見える」ということです。

例えばペンを軽く持って振るとペンが曲がって見える現象があります。しかし実際にはペンは曲がっていません。それに近い感覚でしょうか。

目で追えない速さになってしまうと、しなっているように見えてしまいます。
投球時の腕の動きは高速のため、しなっているように見えてしまいます。
小学生がどんなにいいフォームで投げても、プロ野球選手のように、しなっているようには見えません。
逆に150キロを超えるボールを投げて、しなって見えない選手を見たことがありません。

投球を動画撮影してみると、しなって見えるのもカメラの性能の問題で速く動いている部分の映像がぼやけてしなって見えているだけです。
スマートフォンで投球フォームを撮影し、それを見てみると、いつもよりもしなっているように見えるのはそのためです。
昔の携帯電話のカメラ機能よりかは格段に進歩しているとは思いますが、投球時の高速で振られる腕はどうしても、しなっているように見えてしまいます。

プロ野球中継を録画してスローで再生して見てみると、やはりバットや腕がしなって見えます。
球場にもっと性能のいいカメラを持っていき、撮影することはできないのかと思い、質問してみたのですが、野球場で使うカメラはとても性能のいいカメラみたいです。

では、なぜ腕がしなって見えるのか?

実際に撮影された映像データは、膨大なサイズのファイルになっているので、映像データを圧縮してテレビ等で放送します。そうすると、早く動いている部分の映像が荒くなってしまい、しなって見えてしまうそうです。
実際に撮影したサイズで映像をスロー再生して見たら、そこまでしなって見えないそうです。
それなので、テレビやYouTubeなどで投手の映像を見ると、ファイルのサイズを小さくしているため、どうしてもしなって見えてしまいます。
これは、プロ野球引退後、テレビ関係の会社に勤め、映像等を編集したりもしている、千葉ロッテマリーンズでチームメートだった山本徹也氏に聞きました。

「しならせろ」と言う指導は、「実際の動きとは違う感覚のことを言っている」ので全く理解できない人もいるので注意が必要です。
感覚を感覚で教えるというのは、僕の考えている指導レベルの最高レベルの指導になります。(例えば、長嶋監督が松井秀喜さんにしていた、擬音を使った指導)
この指導でお互いが理解ができるレベルは理想ではあります。
しかし、この指導は、プロ野球のレベルでも、指導者の伝えたいことがなかなか正確に、選手に伝わらないので、大人が中学生や高校生に指導するときやプロがアマチュア選手に指導するときには適していないと思います。

現場で肩や肘が痛いという選手と話すと「しならせる」というのを上手く理解できていないことが多いと感じます。

しならせて投げようとして、肘を先行させ過ぎて、手が遅れると、肘への外反ストレスが増え故障に繋がります。
肘だけでなく、肩関節を上手く固定するのも難しくなり、肩の故障のリスクにもなります。
また、しならせようとし、手首を伸展することや尺屈する(手首が寝る)ことにより、肘を守るための筋肉である屈筋回内筋群(特に尺側手根屈筋)が機能しにくくなり、内側側副靭帯損傷、骨が成長しきっていない子供なら裂離骨折(靭帯より骨のほうが弱いため靭帯を損傷する前に、骨が剥がれる)、等の選手生命を左右するような重大な故障につながります。

例えば、「もっと腕をしならせて投げろ」と指導されたときに、
「あっ!力が入りすぎてるのか。もっと胸を緩めてRSSC(回旋系伸張反射)を使ってしなやかに投げたほうがいいってことね」
といったように、自分のフォームを客観的に見ることができ、アドバイスをくれた人が、「こういうことを言っているのか」とイメージを作れる人には問題ない指導だと思います。

しかし、そこまで考えられない選手には、危険性がある、教え方だと思います。

指導者は、選手の、自分の動きを正確に判断できる能力や自分の評価がより正確にできる能力といった「客観的に見る能力」を把握する必要があります。
その能力のレベルに合わせて指導方法を調整しなければ、正確に伝えたいことが伝わらない可能性がでてきてしまいます。
もちろん、選手の客観的に見る能力を伸ばすことも大切になります。

「肘をしならせて投げる」という指導は、「実際は、しなっているわけではなく、しなって見えている」という、自分の感覚や見た目の感覚を言葉にしているだけだということを理解して使わなければなりません。
教える対象のレベルに応じて、柔軟に指導方法を変え、その中で「しならせる」という言葉が選手の成長につながると判断したら、使うことが選手のためになるのではないでしょうか。

明確な目標・目的のある練習。(投球時の体重移動)

僕は以前から上手くなりたければ、明確な目標・目的を持って、それを理解した練習やトレーニングをすることが大切と言ってきました。
練習メニューやトレーニングメニューをどのように決めるのかを、投手の投球を例に、もっと具体的に説明しようと思います。

投手のスキルには、フィールディング、けん制、スタミナ、リカバリーなど、投球以外にもたくさんありますが今回は、投球のパフォーマンスを向上させるということに焦点を絞り考えていきます。

投手がパフォーマンスを向上させるには、以下のことがひとつでも向上したら必ずパフォーマンスが向上します。
しかし、これには条件が付きます。
条件とは、ひとつを向上させたときに他がマイナスにならなかったらということです。
(簡単に書きましたが、実際はこれがかなり難しい。マイナスを考えられるのは大切な能力)

今回はそのマイナスは頭から外して話を進めます。

投球パフォーマンス向上に必要なこと

  1. 体重移動の速さの向上。体重移動の方向の向上。
  2. 前足(踏み出した足)の着地の安定。
  3. 身体の回転速度の向上。
  4. 腕と肩甲骨(腕と体幹)の協調。
  5. 支点からの距離をできるだけ離したリリースポイント。
  6. フォームの再現性の向上。
  7. 力の伝達の向上。

僕が投手の練習メニューやトレーニングメニューを決めるときに必ず意識していることです。
この中からどこをターゲットにするのかを決めて、練習やトレーニングを考えていきます。

今回は上記の「1・体重移動の速さの向上。体重移動の方向の向上。」を例に説明したいと思います。

投球において、体重移動(重心移動)はとても重要です。
球のスピードには、体重移動の速さが大きなウエイトを占め、打者が感じる球威やコントロールには体重移動の方向が大きく関わってきます。

先ず、体重移動の速さを向上させることを考えてみます。

速さなので、小学生の算数でやった「は・じ・き」を思い出してください。

速さ = 距離 ÷ 時間

つまり、より長い距離をより短い時間で移動できれば速度が上がるということです。

そのためにはどのようにしたらいいのかを考えなくてはなりません。

メカニック(投球フォーム)を変更する。
瞬発力(スピード)を向上させる。
筋力(パワー)を向上させる
コンディションを整える。

やり方はたくさんあります。

例えば、投球フォームを変える、と考えたときに、理想とするフォームを決め、そのフォームを目指すにはどうするのが良いのか、さらに考えます。

身体操作を身に付ける。
投げ込みをする。
体重を上げる。または、減らす。
筋力をつける。

これもいろいろと考えられます。

さらに細かく考えていくことが必要になります。
例えば、身体操作を身に付けるには、柔軟性が必要だったり動作の教育が必要だったりします。
そのためには「じゃあこの練習やこのトレーニングをやろう」と決まるわけです。

そうなって初めて明確な目標・目的のあるトレーニングになります。

体重移動の方向を良くするのも同じような思考で考えていくことが重要になります。
どのようにしたら投球方向に体重移動できるのかを考え、やるべきことを決めていきます。
いくら体重移動の速度が上がってもその方向が投球方向と違っていては十分に体重移動の速度を活かすことができません。
それだけでなく、打者が感じる体感速度やコントロールも体重移動の方向が影響します。

体重移動の速さと方向を向上させると考えるだけでも数えきれないほどの選択肢があります。
その無数にある選択肢から的確に今の自分に合った練習やトレーニングを選ぶことが上達につながります。

どんどん上手くなる選手はこれを当たり前に行っています。
当たり前なので深く考えなくてもできています。
それだけではなくこの作業を反対からもできます。
どのようなことかというと、練習が決められているときになにげなくその練習をするのではなく、この練習は自分のここを向上させるためにすると決め、だからこうする。と自分から明確な目標と目的を設定して練習します。
それはキャッチボールのような単純な練習でも同じようにやるべきことを明確にしています。
このような思考の差から同じ練習を与えられても得られることに差がついていきます。
野球のようなチームスポーツでは、練習メニューが決められていることが多いので、自分からメニューを決められることも、決められたメニューの中で自分なりの目標や目的を決めて練習することも、どちらも重要になります。

今回は、投球における、体重移動についてを例に、話を進めましたが、練習だけでなく、普段の生活から上手くなるためにはどうしたらいいかを考える習慣を持つことが重要です。
一生懸命、練習やトレーニングをする前に明確な目標と目的を持つことにより、同じ練習メニューやトレーニングメニューをしても得られる成果が変わってくると思います。

選手ファースト(武雄ボーイズ)

武雄ボーイズでは、選手ファーストのチーム作りをしています。チームの中心は選手であり、選手のためのチームを作りました。

常に、どうすることが選手のためになるのかを考えています。
その大前提にあるのが「健康、安全を最優先する」ということです。日本のアマチュア野球では、優先順位が高くないことがよくあります。しかし、選手を1番に考えたら優先順位は最も上になければならないと考えています。
健康、安全を考えた上で、選手をどう成長させるかを考えています。

指導者の方針として、「選手あっての指導者である」ということを共通理解をしています。選手へのリスペクトを忘れないで、指導者も選手と一緒に考え、共に成長することを目指しています。
成長しない責任は指導者にあり、すぐに根性論やメンタル論で片付けずに、論理的に分析し、しっかりとした技術を身につけさせるようにしています。

僕が考える、技術を身につける上で最も必要なことは「夢中になる」ということです。
選手が時間を忘れて夢中になって取り組める1番簡単な方法は楽しませることです。そのためには選手が自分の意志で価値を見出し自分から行動することが大切になります。
選手がミスを恐れずに、新しいことにどんどんチャレンジできる雰囲気を作り、選手がやりやすい、夢中になって楽しめる環境になるように全員で努力しています。

そのような環境の中でどのように選手を指導していくのかというと、
指導者は選手を「知っている」の状態ではなく、「理解している」の状態にするような指導をします。頭ごなしに「ああやれ、こうやれ」と教えれば「知っている」という状態は作れると思います。しかし、本当に役に立つようにするには、理解をし、自分に合った自分なりのやり方に変えて初めて自分のスキルになると考えています。自分の頭で理解できなければ、応用することも難しくなります。また、質問されたときに、説明することもできません。
深く理解してもらいたいので、返事を「はい」だけでは終わらせないで、本当に理解しているのかを確認するようにしています。また、自分の言葉で伝えることにより、さらに理解が深められるので、選手どうしで教え合い、アドバイスし合うようにしています。

具体的には、指導者に「求めているのは選手に良い質問をすることで、技術指導は一切求めていません」と伝えています。
例えば、
「なぜ上手くいかなかった?」
「どうすれば上手くいく?」
「どんな練習をする?」
「どのくらいの期間でできる?」
「手伝うことはある?」

このように選手に考えさせるような質問を繰り返して選手を導くやり方です。
また、
「今日の目標は?」
「今日なにしたい?」
「課題は?」
といったような質問を繰り返すことにより、選手はグランドに入った時には、なにをするべきか内容が頭に入っていて、課題を認識している状態に導いていけると思っています。
それができれば、練習の質があがり、短時間での内容の濃い練習に変わっていくと思います。

選手同士、選手と指導者、指導者同士が常に、自分の考えを意見できる会話の多い環境を作るようにしています。

また、選手のデータを集めて違いに気付くように、どのくらい成長しているのかを判断できるようにしています。
そのデータや指導内容を指導者同士で共有するように心がけています。

実際に行っている具体的な普段の練習内容は、
選手が自ら考え行動するために、アップは各自で行い、ラダーやミニハードルなどを使ったドリルは「こういうメニューがあるよ」というのを教えてそれを踏まえて自分たちでメニューを選ぶようにしています。
練習の中に自主練習を積極的に入れていき、選手がコーチに「ノックを打ってください」「バッティングしたいので投げてください」のように選手が自ら考え大人がその練習に協力するという環境を作っています。
まだチームができて間もないので、決してレベルの高い練習ができている訳ではありませんが、選手の自主性は育ってきていると実感しています。

僕が考える選手の評価は

  1. 自主性が身についてなく、どのような練習をするべきか指示を出してくれる人がいないと練習できないレベル。
  2. 自主性が身についていて、やる気、向上心もあるが、練習のやり方や練習メニューを理解できないレベル。
  3. 自主性が身についていて、練習のやり方や練習メニューを理解しているので指示があればしっかり練習できるレベル。
  4. 自主性が身についていて、選手が自分の練習メニューを、作成、実行、評価、再構築できるレベル。

卒業の時には「4」のレベルに持っていきたいと思っています。そこまでいけば、自分から成長できる選手なので、同じ思考方法で、野球に限らず、本人が目標に定めた分野で活躍が期待できる人になると思っています。
逆に「1」のレベルの選手は、社会に出るとなんのために働いているのかわからない、指示がないと何もできない、というような人になると想像できます。

選手ファーストのチーム作りはこれからの時代を生きていく力を身につけるのに適したやり方だと思います。
野球を通じて、優れた人格を身につける。生涯学習できる人を育てる。という指導理念には、欠かすことのできないやり方だと思っています。